夏の日の虹

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

夏の日の虹

 芝生の敷かれた家の庭に二人の子供がいる。 「アル! お水出すよー!!」  人間の子供が蛇口を捻ろうとしていた。彼女は五歳になったばかり。 「毎分20mlの水量が必要ですよ。ウィート」  水撒きホースの口を固定して、ロボットが振り返る。 「また変なこと言ってる! 蛇口何回回すかでしょ? 五回半! 覚えてるくせにー!!」 「ウィートにはAIジョークが通じません。Dr.リー」  初夏の光の中、庭に出たDr.リーは笑う。これが、子供二人が一緒に過ごす最後の日と知っていても、自分は笑えるのだと考えながら。 「ほら! ママ! お水出すよ! 今日も虹、作れるかなぁ?」 「太陽の位置と風向きはきっかり計算済みです」 「アルがそう言ってる。ウィート、GO!」 『GO!!』  人間とAI、二人の子供の声が重なり、蛇口が捻られ、勢いよく流れる水がホースを生き物のように見せる。散水ノズルからシャワーのように水が吹き出し、庭に虹を作った。 「うぁあ! 虹だー」  駆け寄ったウィートが虹に手を伸ばす。 「ちゃんと計算通りですよ。ウィート」  アルがその光景を普段どうりの表情で見ている。毎年夏に繰り返してきた子供たちのその風景は今日で終わりだ。そう思うとDr.リーは涙が流れるのを止められなかった。 「アルの計算はすごいね!」  虹を掴もうとしていたウィートが、満面の笑みでアルを振り返る。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加