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 妊娠十八週目。つわりが落ち着いて、日頃の生活が少しずつ戻って来た。仕事も、無理のない範囲で顔を出せるようになった。  そして、新型出生前診断の結果が通知された。「パトー症候群の疑いがある」との事だった。  この障害の子は、出産までに死んでしまう事が少なくないらしい。無事に生まれたとしても、生後一ヶ月を前にして亡くなる事も多い。一年以上生存する子も居るが、確率は一割未満だ。また、身体や内臓に疾患がある場合も多く、発達や発育も遅くなるという。  医師には、診断結果を確定させる為、羊水検査を勧められた。腹壁から針を刺し、子宮内の羊水を採取する。そこで障害の有無がはっきりと判定されるのだ。  純一は、検査を進めようと言った。しかし、智恵子はどうしたら良いか分からなかった。複雑な感情が、ぐるぐる渦を巻く。  医師から告げられた瞬間は、ただ驚いた。悲しくなった。こんな事がある訳ないと心の中で否定した。現実から逃げたくなった。  時間と共に、どうして自分だけがこんな目に遭わなければならないのかと、怒りさえ感じた。居るかどうか分からない神に祈りさえした。  それから、また悲しみの洞穴に閉じ込められた。
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