第2話 女子大生の日常がそこにある

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第2話 女子大生の日常がそこにある

世界の終焉なんて映画の世界だと思ってた。 まさか、あんなことになるなんて… 今も私達はこうして生き延びる事が出来ている。 ひとりの男・・遠藤近頼(えんどうちかより)によって、色がなくなったこの世界に、光が灯されたのだった。 近頼はおそらくこの世界を救うために遣 つかわされた、救世主というものではないだろうか? 私達は彼を中心にコミュニティを形成し、そして管理のもとで安全な暮らしを送っているのだった。おかげでゾンビに襲われる事もなく、こうして安心して眠ることができる。 いままで何人もの女性が救われてきた。 あることをするだけで安全が確保できるのだからある意味、彼は私達のヒーロー。皆で守らねばならない遺伝子だった。 私は・・ゾンビを燃やす遺伝子を持った、遠藤近頼の子を宿すことになる、でも2年半前の私の暮らしはいま思えば凄く平凡だった。 ゾンビがはびこる終焉の世界で、遠藤近頼と知り合ったことで私は生き延びることができているが、昔を思い出す事もある。幸せな思い出もそうでない事も、もう戻れない青春。 こんなふうになって2年がたった。あのころが懐かしい…もう会えなくなってしまった人達の思い出・・・ 2年前・・ 私が大学に入ったのが8ヶ月前、それまでは田舎の女子高生だった。 両親は地元の国立大学に進学してほしかったようだったけど、どうしても田舎を出たかった私は一生懸命勉強したかいもあって、都会の大学に進学する事ができた。 父親は一人暮らしをすることにいい顔をしなかったが、将来を見据えての事だと説得して一人暮らしをさせてもらった。 安全のためオートロックのマンションの3階に部屋を借りていた。マンションに入る前に郵便ポストをチェックする。 「あれ?」 郵便ポストには運送会社の不在連絡票が入っていた。 「お母さん・・」 実家で、なにかを送ってくれたみたいだった。 一階の自動ドアのロックを解錠するため、暗証番号を入力する。 ピッピピピ、ピッ。シー、ウィィィン マンションの自動ドアを入る。エレベーターに乗り込み3階を押した。 都会に来て8ヶ月。 私の大学に通う生徒たちはみんなおしゃれに見えた。こっちに来て数ヶ月過ごすともう都会の人と変わらない感じになる。 私も友達と化粧品についての情報交換をしたり、ショップにおしゃれな服を買いに行ったりした。私を心配した親は仕送りを多めにしてくれていたが、自分で服やバック・化粧品を買うためにアルバイトをしている。それなりに努力しているのだ。 ドアが、開きます。 エレベーターの機械の声音と共にドアが開いた。 今日は大学の講義が4.5時限が休講だったため早く帰ってきた。アルバイトも休みで友達との約束もなかったので早めに家に帰ってきたのだ。 部屋の前に着いたので、システムキーをバッグから取り出してかざす。 ガチャン シー カチャ 部屋の鍵は普通の鍵とスマートロックの2重構造で、鍵をかざす事でスマートロックも開錠されるようになっている。 《・・とにかく運送屋さんに電話しなくちゃ。》 「ふぅ」 コートを脱いでハンガーにかけた。 《今日はすぐゆっくりしようと思っていたけど、運送屋さんを呼ばないといけないから、まだ部屋着に着替えないでいた方がいいかな?》 不在票にはボールペンで携帯番号が書いてあったのでかけてみることにする。 プルルルルプルルル プッガチャ 「はい、白羊運送です。」 「あの・・不在票がはいっていたのですが?」 「はい、お客様のお名前とご住所をお願いします。」 「長尾栞 西東区2の・・・・です。」 聞かれたとおりに名前と住所を伝えた。 「はい、これからの時間は御在宅ですか?」 「はい、おります。」 「5時頃のお届けになると思います。」 「わかりました。」 5時頃か・・すぐには来ない・・あと1時間半ほどある・・ 「やっぱり、シャワー・・浴びるか。」 ピッ 部屋の暖房ヒーターの電源をいれて、部屋を暖めておく。 カバンから空のお弁当を出してシンクに置いた。 新しい下着と人にみられてもいい部屋着を用意するため、部屋にあるプラボックスへ向かう。 バタン クローゼットのトビラを開け、置いてあるプラボックスを開けるとサシャの甘い香りがした。服の匂い付けと防虫を兼ねて入れている。ホワイトフローラルの香りが気に入っていた。 中段のボックスから淡いパープルの綿のブラジャーとパンティを取り出し、上段のボックスからはふっくら仕上げたベージュのバスタオルを取り出す。 「よし。」 よし。とかつぶやいた自分に、少しおかしさを感じながら風呂場に行く。 ガチャ マンションのお風呂はユニットバスだった。 早く帰ってきたしゆっくりお風呂に浸かろうかな?と思ってたけど、運送屋さんがくるからシャワーだけにする事にした。 長袖のオフホワイトのトップスと、ネイビーカラーのティアードスカートを、洗濯カゴの網にそれぞれいれる。水色レースのブラと下着を脱いでもうひとつの網にいれた。 シャワールームにはいり蛇口をひねる。 キュ シャーーー 「ふう。」 ぬるめのお湯を喉元からかけ、首から胸元に手を這わせて汗を流していく。 まずは頭から洗うためポンプからシャンプーを手にだした。アミノ酸系の甘い香りのするちょっとお高めのシャンプーで、友達からは贅沢してるって言われるけど、髪質が良くなるから気に入って使っていた。 キュ 一度お湯を止めてよく泡立てる。 「んーいい香り。」 頭皮をマッサージするように洗い、お湯をだして泡を流す。セットで買ったトリートメントを手に取り髪によく馴染ませる。そしてまたお湯をだして流す。 ガチャ お湯を止めて浴室のドアをあけ、頭用のタオルをとり髪をまとめる。 そして石鹸を手に取り、ボディタオルによく馴染ませる。石鹸はお気に入りのロカシタヌの石鹸。ラベンダーの香りが落ちつく。 シュワシュワ 体を丹念に洗っていく。 《すっきりして気持ちが良いわ》 昔から香りにはこだわりがあった。気分も安らぐしちょっと奮発しちゃうけど、その値段分の価値はあると思う。 シャアー 体の泡を流して次は顔を洗う。いつもこの順番だった。洗面器にお湯をため、手に洗顔クレンジングジェルをとり、丁寧に化粧を落とした。 ジャバジャバと洗い流し、保湿洗顔ウォッシュを泡立てネットに取り出しクシュクシュと揉む。この泡立てネットも目の細かいものを選んだ、キメの細かい泡が出来るのでよく汚れが落ちる。泡で優しく顔を包むように洗っていき、最後に洗い流した。 「ふぅ」 綺麗になったので、お風呂から出てバスタオルで体の水滴をふき取る。ホームセンターのオリジナルのバスタオルなのだが、吸水性が良くてふんわりしているのが気に入っていた。 体を拭き終わり、淡いパープルのブラと下着をつけた。 洗面台に置いてある化粧水を顔に馴染ませる。化粧水や乳液はそれほどこだわってはいなかった。洗顔を丁寧にすれば、十分保湿効果は得られた。 まあ・・まだ若いからかもしれないけど。 「喉乾いたー」 冷蔵庫を開けてペットボトルのミルクティーを取り出し、カップに注いで部屋に持ってきて、一口飲みテーブルに置いた。 スマートフォンでSNSをチェックするが誰からも連絡は来ていない。 「そっか・・」 アイスミルクティーをもう一口飲み干す。 そして好きなジェラルタピクのワンピースを着る。洗面所に行ってドライヤーで髪を乾かし、乾いた髪を軽くとかして部屋に戻った。 またスマートフォンを見るが特に連絡はないようだった。 本棚から読みかけの小説を取り出して、しおりを挟んだ部分から読み始める。 「ふふ・・」 ちょっと小説のコミカルなシーンにかかって、ひとり笑ってしまった。 ピンポーン インターホンがなった。覗くと運送屋さんが映っていた。 「白羊運送でーす。」 「はい、自動ドアを開けます。部屋までお願いします。」 一階自動ドアのオートロックを解錠して、部屋まで持ってきてもらう。 しばらくすると ピンポーン もう一度、部屋のインターホンがなった。ドアを開けると、緑の制服の運送屋さんがいた。意外と若くて20代後半くらいだろうか? 「あのすみません。ハンコかサインをお願いします。」 伝票を出してきたのでサインをする。サインしている間ずっと私の事を見ている。 「あの、これ・・」 私が伝票を渡すと、 「あ、ああ。ありがとうございます。」 「はい。」 《こんな格好で出た私が悪いよね。少し胸元開き気味の服だから・・目線が行くのも無理ないか。》 運送屋さんは一瞬目を泳がせて、荷物を玄関口に置いてくれた。 「重いのでこちらに置きます。」 「ありがとうございます。」 バタン! ダンボールは実家からだった。どうやら親からの荷物は仕送りだったらしい。 早速カッターでガムテープを切るのだった。
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