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社用車の窓を全開にしながら、冷え固まった愛妻弁当を食べた。思えば、手作りなんていつぶりだろうか。
にやけながら食べているのがバレたら、きっと気持ち悪いなんて言われてしまうな、と更に口角を上げていた。
「気持ち悪い!」
突然の大きな声に驚いてしまった。帰宅して、俺が作る晩御飯を待っているであろうリビングのソファに座る君。愛妻弁当ありがとう、と横抱きすると、かつてない勢いで拒否された。テンションが高すぎたのだろうか。いや、でも俺たちってまだ結婚して間もないし。
「明日からはちゃんと俺が用意するからね」
「近づかないでよ」
負けじと、再び覗き込むように距離を詰めようとしたけれど、寝室に去って行かれた。
まだ晩御飯を食べていないというのに、ブランケットを頭から被って静かになってしまった。
「なにかあった?」
寝室の入り口から声をかけたが、返事は無かった。確実に聞こえてはいるだろう。ぐすぐすと啜り泣く声が漏れていた。
温かくて美味しいご飯を食べれば、きっと嫌なことも忘れられるはずだ。早く用意しようとキッチンに戻った。
結局、俺が起きている間には食べてはくれなかった。
実は知っている。夜中まで眠れなくて、たまにリビングで時間を潰していること。今夜はきっとお腹が空いて、晩御飯を食べるだろう。
美穂は俺の作った料理が好きなようだ。食は細い方だと思うのに、残さず食べてくれる。いつもより少しだけ柔らかい表情になる。胃袋をがっしりと掴んでいる自信はある。
だけど、辛い時に頼られないのは、何故なんだろう。
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