憂いに満たされる日々

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憂いに満たされる日々

 毎日朝が来るのが憂鬱に思えるようになってから、早くも一ヶ月半が経った。美穂の為にと得た知識から、日に日に動かなくなっていく脳が、己自身に、さっさと病院に行け、と命じていた。  彼女の前ではこれまで以上に陽気に振る舞っている気がする。夫婦関係における優しい夫を演じているようだった。まるでペルソナだ、なんて歯を磨きながら、無意識に呟いた時に、今夜こそ診察してもらおう、と決意した。  妻に打ち明けなかったのは、気のせいという可能性もあると考えていたからだ。引っ掻き回しておいて、勘違いでしたは無いだろう。自分のことでいっぱいいっぱいである美穂の気を煩わせたくなんてなかった。 「藤巻さん、大丈夫ですよ。寝付きが良くなるお薬とそわそわした気持ちが落ち着くお薬を出しておきますね。とりあえず一週間飲んでみて、様子を見てみましょう」  脳天がかち割られたような衝撃で固まってしまった。結局、美穂を診てもらおうと思っていた医師に、俺の方が病気だと言われたも同然だった。  診察室の中で、聞き慣れない泣き声が響いた。知らないうちに声を上げて泣いていたのだ。  自分の気持ちなんて、簡単にコントロールできるものだと思い上がって生きてきていた。とんだ大馬鹿者だ。 「こんな奴、愛されなくて当然だよ」  帰路に着く頃には、服用予定の処方薬が一つ追加されていた。気分の落ち込みを改善してくれるらしい。 「美穂、ごめん……」  俺の手で、大好きな君を幸せにすると言う夢が、いとも簡単に崩れ去った。
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