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溢れ出てくる涙を堰き止めたくて目を瞑れば、結局零れていくのだ。どうしようもない。
「大丈夫。俺って心底役立たずだなって自己嫌悪に陥ってるだけ」
目の前の妻を見やると、信じられない、という表情をしている。
「……何かあった?」
「……何も。特には」
嘘だ。もうずっと前からおかしい。君に愛されていないと思えば思うほど、自分が無価値で無意味な存在に思えるんだよ。
「…………」
美穂は、このような、いつも起こり得ないことに対応するのが苦手だ。眉間に皺を寄せて、考え込んでしまった。
俺はこの沈黙自体が苦手だ。思わず、正解を導き出そうと口を挟んでしまう。
「駅前のスーパーならまだ開いてるし、出かけてくるよ」
この場から早く逃れようと、彼女の傍を通れば、腕に抱きつかれた。
「ん?」
咄嗟の行動だったのだろう。みるみるうちに、鎖骨の辺りから上に向かって皮膚が赤みを帯びていく。
「こんな時くらい、出前とりたい。体に悪そうなジャンキーなもの。死ぬほど食べたい」
出前をとりたいという珍しい内容より、死ぬというワードが心臓をチクリと刺した。
身体自体は健康そのものなのに、毎日が地獄のようだ。いつか、付き合って初めて喧嘩した日があって、その時に言われた言葉を思い出す。
ーー死神がいつも手招きしてるの
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