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輪郭の無い誓い
「こんなところで?」
嫌だとは言われなかった。お互いが自分自身の本音に驚いていたように思う。
癖のある匂いをウェットティッシュで拭き取っている間も、二人とも熱に浮かされていた。本当に余裕があるならシャワーを浴びれば良かったのに、この気持ちが消え去る前に事を成したかった。
ーーそうか。消えてしまう程度のものなんだ
どす黒い渦が巻いた。運命を論じてきたつもりはなかったけれど、美穂の信頼を勝ち得た最初の一人であることで、優越感に浸っていたことも事実である。
同じように声をかける者がいれば、美穂はそいつに心を開くだろう。こんな風に体を許しただろう。
俺が特別だなんて、今の俺には思えない。君の魅力に気づける自分であったことが嬉しくて、その為に生まれてきたような気分になっていた。
今は違う。そんな不確かなものじゃ慰めにもならない。
これじゃ執着じゃないか。美穂も?
惹かれあったわけじゃなかったんだ。俺じゃなくてもよかったんだ。
もっと優しくて甘い言葉をかけられたら、寂しがり屋の君はどうなってしまうんだろう。
この見せかけの愛情に気がついて、酷い奴だって俺を罵って、一緒にいた時間を取り返せないと呪うんだろうか。
自分に自信を持ってよ……。俺しかいないって思ってくれているのは察している。でも、美穂は本当にそれで良いの?
愛してるっていう言葉を鵜呑みにするから、こんな悪い男に引っかかるんだよ。
振り向いてほしい、好きになってほしい、骨の髄まで自分のものにしたい。エゴ以外の何だって言うんだ。
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