苦難の回想と想像且つ創造

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苦難の回想と想像且つ創造

「美穂ぉ、早く帰ってこないかな……」  リビングにノートPCを持ってきて、いわゆるリモートワークの最中。椅子に深く背もたれ、そのまま脱力するように滑り落ちていくと、天井が見えた。  足で稼ぐ営業部の在宅でのお仕事はと言うと、普段は後回しになっている資料整理である。この機会に、分析したり、計画を考えたり。見張り役の彼女が出社してしまっては、全くもって身が入らない。  ぼんやりと、この一年間を思い返してみた。焦点を合わせる気がなくて霞むのか、知らず知らず涙が溢れて滲むのか、はたまた両方のせいで視界が悪くなる。これではますます仕事ができない。  美穂は昨晩、言葉をつっかえながら打ち明けてくれた。 ーーてっきり、他に好きな人がいるんだって思い込んでたの  以前の俺であれば、嫉妬してくれてるなんて愛されてるって喜べたはずなのに。今の俺は、自分の軽率さを呪うことしかできない。  いくら言葉にしても相手には伝わらない。その無力感に押し潰されて息ができなくなりそうだ。実際に、室内だと言うのに、手足が冷えて動かなくなっていくような気がする。  近頃の美穂は困ったように笑っている。俺への接し方が分からないのだろう。甘えることで愛情表現をしていた彼女には、せっせと夫の世話を焼くのは心身ともに大変だろう。分かっている、分かっているなら何故、俺は治らないのか。
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