般若の面

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 お手洗いで鏡を前にしたら、自分の顔色の悪さに驚いた。昨夜は無理を言ってでも休みを合わせようと考えていた。  美穂が付き合いだした記念日に有給休暇を希望していたことに気づいて、その日は朝から晩まで一緒にいよう、久しぶりに買い物に出かけたり、夜は思い出のホテルでディナーをしよう、と嬉しくて堪らなかった。  休みが取れたと伝えたら、彼女はきっと照れくさそうに笑うに違いない、と。  何故なんだ。うちの会社は営業部は花形。美穂は俺と並んでエース的存在。仕事に誇りを持っていたはずだ。  社内恋愛も禁止されていないし、時代に合わせて融通が利く。それなのにわざわざ異動するなんて。 ーー今夜遅くなっちゃうけど話したいことがあるんだ  トークアプリで美穂にメッセージを送信する。彼女は今日は家にいるはずだ。  3分と経たずに返信が返ってきた。 ーー先に寝てる 「会話になってないし」  溜め息を吐くしかなかった。
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