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凶夢の始まり
普段は料理をしない美穂の手作り中華は、思いの外美味しかった。才能あるよ、と伝えると、これ朝の9時から作り始めたんだよ、との返答。し慣れないことをしたものだなと微笑ましい。
「二人分だから余計に大変だったでしょ」
「そうでもないって言いたいところだけど、労力2倍どころじゃなかった!」
「ははっ」
「何がおかしいのよ」
急に子どもみたいに怒り出す彼女を見ていると、営業部のクールビューティーと言われて持て囃されたのが嘘みたいだ。
「女性が多いって、どこに移動したんだっけ」
「あれ? 言ってなかったっけ。庶務科だよ」
さすがの俺も呆れてしまう。職場で報連相ができるくせに、家庭ではできないのか。
「営業の仕事好きだったのに、どうしたの」
「家庭を持っている女性社員が多い部署だから休みが取りやすいのよ。営業部は基本は漢の園だし、体力勝負だし、そろそろ勇退したいと思ってたの。うちの会社は事務系統がいまひとつだから前々から気にはなってたの。私が変えてやろうって」
休みが取りやすい? 家庭を持っている?
「どうしたの? 顔真っ赤だよ! ごめん! 辛すぎたかな」
違う違うと顔の前で手を振る。可愛い我が子を胸に抱く、聖母マリアのような美穂を思い浮かべてたなんて恥ずかしくて言えない。
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