凶夢の始まり

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「こんなに幸せで良いのかなぁ……」 「ふふっ、いきなりどうしたの」  俺の惚気を聞いて思わず吹き出した美穂は、いきなりだったからびっくりした、と笑っている。 「なんかさ、もうどうでも良いやって気になってさ。自分に呆れるよ」  てっきり避けられていると早とちりして、この世の終わりみたいな顔をして、毎日乗る電車に乗って帰ってきたのが馬鹿らしい。  彼女が言葉足らずなところがあるなんて、出会った頃から分かっていたじゃないか。  どういう意味か分からないと言わんばかりに首を傾げる眼前の妻の仕草が可愛らしくて、ついついお酒に手が伸びる。 「いや、ね? 人っていうのは、幸せになる為に生きているはずなのに、この世の終わりだーって簡単に思うなんて、格好つかないなって」 「さっきから何が言いたいのか分からないよ」  少し困ったように眉をへの字にするから、ついつい揶揄(からか)いたくなる。 「俺にはね、運命の女神が側に居るんだ。一番欲しいものをくれる予定の」  自分と最愛の妻との間に、子どもができることを夢見ている。美穂はまだ仕事に専念したいだろうからと諦めていたけれど、結婚を機にワークスタイルまで変えてくれるだなんて思っていなかった。  美穂には分からないだろう。いや、知らなくて良い。俺がどこまで君に執着しているかなんて。 「その美しさには俺だけが魅せられていれば良いかなって考え始めた」 「はっきりしない物言いをされると、汲み取れないから!」  抽象的な発言に苛立っているようだ。  少しくらい良いだろうなんて、その時の俺はどうかしていた。振り返って思えば、あれがそもそもの誤解を招いていたんだ。 「美穂はずっとそのままでいてくれて良いよ。俺は俺で、好きな人を愛し続けるだけだから」  今度は自分じゃなくて相手が真っ赤な顔をして、溢れようとする涙で瞳が形を変えたけれど、ちょっとした意地悪のつもりでフォローをしなかった。  俺の好きな人なんて、美穂以外にいるわけないんだから--
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