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形だけの蜜月
意地悪しすぎたかな、と思うくらいには、俺も大概天然ボケであった。
嫌いな洗い物を虚な目で無意識にしてしまう程に、美穂はダメージを受けていた。
手際の悪い手から陶器の食器が落ちそうになってしまう。それを、そっと受け取るように後ろから手を伸ばした。
一瞬触れた彼女の手が、氷のように冷たい。
「冷え切ってるよ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ」
目だけでなく、言葉まで真っ直ぐそこにいない誰かに向かって届けているようだ。
朝から慣れないことしてたからキャパオーバーにさせてしまったのか、と早合点してしまっていた。
自分には、好きな相手を困らせてしまう小学生みたいな性分が潜んでいる。だけど、美穂にはきっと合わないだろうからと、いつもは自制していた。
その何も映ってはいないような瞳の中を横から覗き込むように近づいてみた。
今まさにこちらに気づいたかのように、ゆっくりと振り向くと俺を捉えた。その瞬間は猫の瞳を彷彿とさせた。
「ん? 体をあっためる?」
問いかけると、俺の胸にすっぽりと凭れかかってきて、動かなくなってしまった。少し無理して片手を伸ばし、流れている水を止める。
彼女の太腿をしっかりと抱え込み、上体を俺の肩に体重をかけやすくした状態で運んでいく。
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