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美穂とあなた
今まで美穂にいくら冷たくあしらわれようと、心にはどこか優しい感情が漂っていた。
いつかこの人の中にも愛されるという喜びが芽生えれば良いなという希望があって、きっとその相手は俺に違いないという安心感があった。
安心感は婚姻関係を結ぶことができたという事実から生まれているものだった。
俺を選んでくれたのだから、きっと言葉に言い表せないだけで、好ましいと想ってくれているだろう、と。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
自己肯定感の低い彼女にとってみたら、新婚生活も幸せの象徴ではないようだ。
同じ屋根の下で眠りについても、いや、同じベッドの上で肌を重ねているのにも関わらず、名前を呼ぶことすら無くなった。
まるで、俺の悟という名前は、初めから在りはしないんじゃないかと考えた。
俺は悟では無いのかもしれない。あなた、という記号が俺なのかも。
俺は、美穂のことは美穂と呼び続けたい。
妻になっても、いつの日か子どもの母になっても。
しわしわのお婆さんになったとしても。
美穂が美穂である限り。
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