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「いまどこ」  会社終わりで駅に向かっている途中、山本のスマホにメッセージが来た。  見ると、大学の時の友達、高村からだった。卒業以来、数年ぶりの突然のメッセージ。 (うん?なんだこれ、送る相手間違えてるんじゃないのか)  放っておくのも悪いし、暇だし、おちょくってやろうと思って、山本は返信した。 「いつも言ってただろ。聞く前にまず自分がどこにいるか言えって」 30秒ぐらいしてから、返事が来た。 「お前、本当に山本か」 「そうだよ。間違えて送ったか」 「いや、間違えたわけではないんだが」 「何だよ、変なこと言うな。それで高村はいまどこにいるんだよ」 「お寺」 「寺?こんな時間に墓参りでもしてるんか」 「墓参りじゃない」 「じゃなんだよ」 「葬式」 「そんなときに連絡してくるなよ」 「まさか返事来るとは思わなくて」 「メッセージしといてなんだその言い方」 「そこ、天国なのか」 「何言ってんの、意味分からん。普通に仕事がつらい現世だが」 「山本、お前いまどこにいる」 「会社帰りで駅に向かってるところ」 「今すぐスマホから目を離せ、顔上げろ!」 (は?) 言うとおり、顔を上げたらいつの間にか信号のない横断歩道の真ん中を歩いていた。 右側から車が猛スピードで近づいてくるのが視界に入った。 道路にスマホが転がっている。ひび割れたスマホの画面が光る。 「山本、俺いまお前の葬式に来てるんだ」 既読はつかなかった。
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