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メンヘラ
高校三年の夏、俺はある女子に告白をされた。その女子の名前は桐原佐切。俺は当時茜さんと付き合っていた。それだけが理由なわけではないが、俺は佐切の告白を断った。でも佐切は諦めなかった。佐切は毎日のように「付き合ってほしい」「二番目でもいいから」と何度も言い寄ってきた。
告白を断り続けていくうちに回数は減り、冬には告白をされる事がなくなった。俺は少し安心していた矢先に茜さんに告白の事を黙っていたことがバレてしまったのだ。「本当は二股してるんじゃないの?」「どうせやってんでしょ?」そんな疑いをかけられ、弁解をするも、茜さんは一度怒るとどんな謝罪も受け入れなかった。その事に普段何されても怒らない俺が珍しく怒り、そんなにその女と浮気したって疑うんだったら本当に浮気してやると、言ってはいけないことをくちばしってしまった。俺は後で本当に後悔した。最低で自分勝手で子供だったのだ。
俺はその日の夜、女子から佐切の連絡先を聞き出し公園に呼び出した。公園に現れた佐切はしっかりとメイクをしてオフショルの白いニットのミニワンピを着ていた。夜道を女子一人で歩くには危険すぎる服装だ。
そしてその日の俺は壊れていた。
そう。壊れていたのだ。
俺は何も言わず佐切に近づくと佐切の肩を強く握り無理矢理唇を奪った。佐切は嫌がりもせず、ただ俺を受け入れた。佐切の薄い唇の間に乱暴に舌を滑り込ませると、佐切はぎこちなく舌を絡めてきた。その時俺は気づいた。佐切にとってこれが初めてのキスだったんだと。唇を離し佐切の顔を見ると佐切は泣いていた。俺はごめんと言って離そうとすると佐切は俺の腕を掴み離さないでと涙眼に言った。せっかくしたメイクは涙で崩れていたが俺はそれが堪らなく可愛く思えた。
この数ヶ月間で佐切は変わった。もともと目だつタイプではなく、いつも一人でいるイメージしかなかった。でも俺に告白するようになってから日に日に佐切は可愛くなった。眼鏡をカラコンに変え、ボサボサで長い黒髪は整ったショートヘアーになり、見た目が明るくなったお陰か性格もどことなく明るくなっていた気がしていた。
それも全て俺に好かれる為に頑張っていたのだ。俺は佐切を強く抱き締めそして謝った。こんなのはやはり間違っていると思った。一時の感情で佐切を利用しようとするなんて絶対あってはいけない。そう思えた。だから俺は佐切をこのまま家まで送っていくことにした。
だが、佐切はそれを断った。
寂しさを埋める存在でもいい。少しの時間でもいいから虎太郎くんを感じてたいの。そう懇願された。でも俺は無理だと断った。すると佐切は振り向いてくれなきゃ死ぬとまで言い出したのだ。佐切は鞄から果物ナイフを取り出し自分の喉に突き立てた。俺は流石に怖くなり送っていく事を断念し考え悩んだ。もしこれで佐切の願いを断れば佐切は自殺するかもしれない。そう思うと、もはや選択肢は残されていなかった。
俺は仕方なく佐切をホテルに連れていき佐切の望み通り初めての男になった。
でもこの選択は大きな間違いだった。
佐切は俺との写真をSNSに上げたのだ。その情報は瞬く間に広がり茜さんの耳に入るのも、そうはかからなかった。茜さんは激昂すると、俺を何発も殴った。
後日茜さんは学校の外で佐切を呼び出し女友達数人で暴行した。俺の目の前でもう二度と俺に近づかない事を約束させようとした。でも、けして佐切は首を縦にふることはなかった。どんなに殴られても俺から離れるのは絶対に嫌だと言って聞かなかった。最初は傷が目立たない腹を中心に殴られていたが、佐切が断り続けると、茜さんもむきになり顔を殴り始めた、それでも折れない佐切に茜さんはポケットからカッターを取り出し、顔に刃を押し当てた。その時俺はこれ以上佐切が傷つくのが怖くて言ってしまったんだ。「お前とは一生話さない。二度と俺に近づくな」と。それを聞いた佐切は糸の切れた人形のようにパタリと倒れ、茜さんたちはそれを見て興ざめしたのかそれぞれ解散していった。茜さんとはそれをきっかけにお互い距離をとるようになり自然と別れる形になった。佐切はそれから一切学校に顔を出すことは無く、噂で学校を辞めたと聞かされた。
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