・詐欺

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・詐欺

――今、どこにいる?  殺しにいくから、場所を教えて。  そんな文章が書かれた、一通のメール。俺はタバコを咥えながらパソコンを操作し、それを名前すら知らない、今回のターゲットに送信した。  画面に映る『送信完了』の文字を確認してから、ふー、と煙を吐き出して、ボロいアパートの天井を仰ぎ見る。  今の詐欺(しごと)を始めてもう1年近くになるが、このメールを送る時だけは、やはりいつも緊張してしまう。なぜなら相手がこのメールにどう反応するかで、仕事の結果がほぼ決まってしまうからだ。  反応がなければ、ほぼ失敗。反応があれば、ほぼ成功と見ていい。固唾をのんで、パソコンのディスプレイを見つめる。  すると、ほどなくして、テーブルの上のスマートフォンが震えた。 ――かかったか。  俺は口元をゆるめ、しかしそれを悟られないよう、咳払いをしてから「もしもし」と低い声を出した。
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