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・分岐
この世には、2種類の人間がいる。騙す人間と、騙される人間だ。
正直あまり面と向かって認めたくもない事だが、しかしそれはこの世の常識だ。『騙される方が悪い』という言葉が広まるくらいには、あちこちに詐欺が溢れているのである。
かくいう俺も、これまで散々騙されてきた。
痩せるサプリ。モテる御守り。幸運になるペンダント。挙げていけばきりがない。
しかし、中でも特に強烈だったのは、数年前、社会人になりたての頃に買ってしまった、悪霊退散の壺だろう。
街中を歩いていたら、突然女の人(清楚系の、超絶美人な人)に声をかけられ、
「あのっ……突然すみません……。わたし、実は霊感があるんですけれど……あなたの背中に、とても悪い霊が憑いてるのが視えるんです……」
と言い寄られ、「わたし、あなたを助けたいんですっ」と切実に迫られ、手を握られ、顔を近づけられ、結局数十万もするものを買ってしまったのだ。
後日、俺はそれを友人にエピソードつきで見せたのだが、
「おいこれ、壺じゃなくて植木鉢だぜ? つーか、うちのばあちゃんが同じようなの持ってた」
――と、言われた。
あの時の衝撃は、今でも忘れる事が出来ない。
(ちなみに、万が一という可能性もあるので、その壺(植木鉢)は今でも大事に飾ってある)
――とにかく、だ。これまで俺はあらゆる場所であらゆるものに騙され、搾取され、絶望し、そしてようやく理解したのだ。
騙す方が悪いとか騙される方が悪いとか、そんな事を議論する事にもはや意味などない。
ただ世界は『そういうもの』であり、そして騙されないためには、己の身を護るためにも自分が騙す側にまわるしかないのだと。
相手が誰だろうと、関係ない。
弱者、強者、男、女、若者、お年寄り。誰だろうと、俺と同じ絶望を味わわせてやる。
そう心に誓ったのが、俺が詐欺師になったきっかけであり、始まりだった。
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