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・独立
詐欺師は、当たり前だが世に認められた正当な職業ではない。にも関わらず、いざなろうと思った時には、知識、ノウハウ、資金、人員など、いろいろなものが必要になった。
もちろん俺にはそんなもの用意出来る力などなくて、数年間は他の詐欺師のサポートをする、いわゆる『闇バイト』などで生計を立てていた。
けれどいくら仕事をしても給料はピンハネされてしまうので、自分の取り分は雀の涙程度。これでは結局、詐欺られているも同然だった。
――なんとか、自立したい。
何か、うまい方法はないのか?
そんな事を日々考えながら生活を続けていた、ある日の事だ。
友人とふたりで飲みに行った際、こんな話をされた。
「……なあ。おまえ、昨日ショッピングモールにいただろ」
焼き鳥をビールで流しながら、俺は友人の顔を見た。
もうかなり酔っているのか赤い顔をしていたが、その口調はしっかりとしていた。
「どこだって?」
「だから、ショッピングモールだよ。なんて言ったっけ……ほら、とにかく近所にあるだろ。昨日あそこにいただろ」
「いや、いねえよ。昨日は俺、ずっとオフィスで詐欺してたぞ。電話かけまくってよ」
「うそつけー、さすがに見間違えねえよ。おまえレベルの図体でダサい私服着てるやつなんて、他にいるわけねえだろ」
「行ってねえって言ってんだろ、タコが」
「じゃあ、ドッペルゲンガーかあ? ……へっ、おまえの事、そのうち殺しに来るかもよお?」
「来ねえよ、ばーか」
と、笑って言いながらも、内心では正直少しだけ気味が悪かった。
自分で言うのもなんだが、友人の言う通り、俺はかなりタッパがあるし、横にもデカい。
もちろん、似たような体型のやつは探せばいくらでもいるだろうが、長いつきあいである友人が、他人と俺とを見間違えるとはなかなか思えなかったのだ。
――まさか、本当にドッペルゲンガー?
……いやいやいや。ありえんありえん。気持ち悪い。
と、頭の中であれこれ考える事、数秒。脳裏でふと、何か光がさした気がした。
「……待て。これ……意外に使えるんじゃねえか?」
小さくつぶやく。友人が、「は?」という顔をしていたが、俺は気にせず焼き鳥にかぶりついた。
……ひらめいたかもしれない。
馬鹿らしいが新しい、詐欺の手口が。
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