・手口

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・手口

 ドッペルゲンガーという存在について、俺が知っている事はあまりない。かろうじて知っているのは、自分そっくりの姿をしているだとか、出遭ったら殺されてしまうらしいだとか、せいぜいそのくらいか。  つまりは幽霊とか妖怪とか、ソッチ系の存在であると言える。 ――ようするに、本来ならば『存在しない存在』という事だ。幽霊もそうだが、そういった存在は詐欺(ネタ)にしやすい。  しかも界隈(かいわい)で、『ドッペルゲンガー』という存在を使った詐欺は未だかつて聞いた事がなかった。詐欺は鮮度が命で、常に新しい事に挑戦する精神が大事だ。試してみるのは悪くないだろう。  さて。俺の考え出した手口は、こうだ。  1、まずは最初に、街中で適当に騙す相手(ターゲット)を決める。  2、続いて、その辺で小銭をばらまいて『協力者』を無作為にスカウトし、ターゲットと接触してもらう。  ちなみに協力者たちには「先ほどは親切にしていただいてありがとうございました」とか「あれ、久しぶり~」とか、ターゲットの身には覚えのない事を言ってもらう。  そうする事で、ターゲットに、ぼんやりとでも『ドッペルゲンガー』という存在を意識し、気味悪がってもらうというわけだ。  3、そうして、ターゲットがネットでドッペルゲンガーについて検索してくれるのを待つ。 (現代人は、少しでも気になる事があると大抵すぐに検索するもんだぜ)  4、そんでもって、俺が2週間寝ずに――いや、本当はけっこう寝たが――とにかく頑張って作った『ドッペルゲンガー総合相談サイト』に飛んでもらう。  で、そこまで来たら、もうこっちの土俵だ。  そこで相談に乗るフリをしつつターゲットの不安を(あお)り、 『ドッペルゲンガーはもうあなたのすぐ近くにいます』 『まずいですね。このままではドッペルゲンガーに殺されてしまうかもしれません』 『もし、ドッペルゲンガーがあなたの居場所を探るような素振りを見せ始めたら、もう手遅れです』 『私はその道のプロです。○○万円払っていただければ、私が責任を持ってあなたのドッペルゲンガーを退治(ころ)してさしあげます』  とか適当な事を言って、カネを巻き上げる。  作戦は以上だ。 「……か、完璧だ……」  テーブルの上で書いた『おれがかんがえたさいきょうのてぐち』の紙を見ながら、俺はごくりと唾を飲み込んだ。  実際にやってみない事にはどうなるかは分からないが、これを何人もの相手にやれば、引っかかるやつは少なからずいるのではないか? という気がした。
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