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俺には見えているから
“コンコン!”
今日もいつもと同じ時間に僕のボロアパートのドアはノックされた。僕は今日もいつも通り申し訳無さそうな顔を作ってから、ドアを開けた。
「おい。『もう少し待ってくれ』のもう少しはとっくに過ぎているぞ。一体どうゆうつもりだ?」
そこには、いつものように大学の頃の友人が居て、早口で捲し立ててきた。勿論これもいつもの事なのだ。
「すまない、もう少しだけ待ってくれ…」
僕はいつもと同じ言葉で上っ面だけの謝罪の言葉を口にする。
「オイオイ、今月には返すと言ってたよな⁈俺はお前を信じて三十万も貸したんだぞ⁈」
友人は声を荒げた。
「勿論、感謝してるし、悪いと思っているよ!だけど今月は無理なんだ…!頼む!来月まで待ってくれ…!」
友人はイライラした顔で僕に言った。
「はぁ…。まぁ、お前とは良い友達だ。分かった、来月まで待とう。だが、少しでも返せるならそうしろよ。そして、俺は明日も来るからな!」
「ああ。勿論だ」
友人は今日も帰っていった。流石に日に日に荒くなっている。まあ、僕が金を返さないからだ。でも僕は友人に金を返す気なんてこれっぽっちも無い。なんなら返す必要が無くなるから。
だって僕には見えているから。アイツの後ろにいつも憑いている死神が。
もう少しだろう。もう少し待っていれば、アイツに憑いている死神が仕事をするだろう。そうすれば借金なんてチャラになる。そう。もう少し引き伸ばして、待っていれば良いのさ…。
翌日、男は遺体で見つかった。自宅のボロアパートの鉄製の外階段が腐食していて、運悪く男が階段を降りている時に天板が抜けて、下のコンクリートに叩き付けられたのだった。
そう。男に憑いていた死神が、男に仕事をしたのだ。これで男は友人からの借金を返せなくなってしまったのであった。
そして、それとほぼ同時刻の事であった。男の友人の男が事故死していた。仕事現場で足を滑らせて転けた男は、置いてあったコンクリート製の部材で頭を強打し、それが致命傷となったのであった。
勿論、男に憑いていた死神が仕事をしたのだった。男はこれで友人に貸していた三十万を取り立てる事も、返してもらう事も出来なくなったのだった。男が友人からの返金を焦っていたのは男にも友人の後ろに憑いている死神が見えていたからなのであった。
そう。二人は互いに相手に憑いている死神が見えていたのだ。だが、二人には相手に憑いている死神は見えていたが、自らに憑いている死神は見えていなかった。まさか自らににも死神が憑いているとは夢にも思っていなかった二人は図らずも同じ日に互いの死神の餌食となったのであった。終
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