征服してください、魔王様!

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 驚きで見開かれた青い瞳が、魔王へと向けられる。ノヴァはカノンの頬を両手で挟むと、無理やり父親の方に向けた。  今まで聞いた事のない、低く怒りに満ちた声色が、少女の鼓膜を震わせる。 「望みもしない側室を迎えなければならない苦悩を抱いているのは、お前の母親だけではないのだ。お前には分からなかったのか? 話をする父親の表情が、どれだけ苦痛で歪んでいたのかを。全ては、愛するお前が醜い権力争いに巻き込まれぬよう両親が下した苦渋の決断なのだ」  カノンの瞳に涙が溢れた。悔しそうに唇を真一文字に結びながら、両手を強く握っている。  彼女にも分かっているのだ。  辛くても、認めなければならない事を。  その辛さの中にこそ、自分を想う愛があった事を。  ぎゅっと双眸を閉じると、二筋の涙が頬を伝って落ちた。少しの間の後、青い瞳が父親に向けられる。その表情は、十歳とは思えない程大人びていた。
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