3.答えてあげて

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3.答えてあげて

どうしたものかしら、私は考えていた。 日常の中で、困ったことはない。甘んじているわけだから、人との関わりは最低限だ。お金に困っているわけでもない。自分が夢を諦めた時から、停滞は始まっていた。その間、私には一刻も早くこの場から逃げる事だけが重視された。そうやって、逃げてばかりの人生だ。私には他に誰も知り合いもいない。今は孤独な毎日を過ごしている。 性的なトウウマは、私にはもはや、慣れでしかない。自分がたまにおかしな事を言っているのは、他の人を見てれば分かるし、顔を訝しげに見つめているから、ソッと離れる。人間関係や、また社会復帰をしたいわけでもないから、私は静かに畑を耕して、土に触れた暮らしがしたい。 マンションのそばにある、畑を借りて栽培を手伝っている。自分のものは自分で作る。そんな暮らし、それだけで案外この世界では生きていけるし、私みたいな人に対する同情の余地があるので、なんとかなっている。あの男を、どうこうする気はもはや、私にはどうでもいい事で、既にそばには居ない。 何もないのだ。 私は、自分が才能を使わない事が、別段寂しくない。期待に答える形で、応えて来たけれど、その気持ちだって、承認欲求みたいなものが若い頃、多分にあったから、それを少し抑え、現実を見て、その上でその夢を追えば良かったのに、なまじ若い頃、有名になってしまった。大器晩成型には向いてない。 私はやれやれと自分のこだわっていたものをようやく捨て去る事にした。 作りたいものが無い。だったら、しなくていい。
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