4.消え去りたいなんて考えないで

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4.消え去りたいなんて考えないで

人を殺している過去があった。マークはそう、一人海外のNYで、寂しく下界を見下ろしていた。高いマンションだった。高層に位置していて、私はいつも、音楽を作り続けていた。売れない時代から、随分ここに居たが、自分の作るものが、時代を捉えている事に違和感を感じていた。僕の作るものなんか、なぜ、皆んな聴きたがるンダロウ?訳がわからない。俺は過去に3人ほど…自分でも覚えちゃいない程人を殺している。銃社会アメリカは司法の国で、法律が自分に有利に働く事を私自身よくわかっていた。あくまで、絶対的確信があった。この国でなら、俺は生きられる、と。ブラックマターやら、なんやらについて、黒人たちが声だかに騒いでいたのも他人事の様に見ていた。実際、そのうちの一人に俺は会ったことがある。彼は相当参っている様だった。精神的に酷く不安定で、憔悴し切って居た。この問題は、日本ではオオサカナオミ、と言う多国籍の女性が、大々的に騒いでいたから、日本でも一時期話題になった。されど、オオサカは、この危機を逆に自分にとってチャンスに変えた。その点でようやくこの国の危機が世界に知らしめられ、当事者意識が芽生え出した、かなり時代の大きな転換期だった。日本でオリンピックが開催された事は、奇跡の様だった。 されど、そんな事はどうでも良かった。銃社会アメリカは犯罪が絶えない無法地帯である。その中で、年間何千万人という人が銃でこの世を去って、殺傷能力が一番高い兵器だ。日本では銃刀法違反になり、所持は禁止されているが、仕込み杖(鞘に収まる、切先の尖った刃が鞘を抜くと、現れる仕組み)は、見つかるとまずいがまだ市場に出回っている。 ヤクザの抗争も、工藤組の大々的摘発により、検挙され、彼らの立場は益々、狭くなった。 警察としても、大きな時代の流れに巻き込まれた様だ…。 問題はそんなことではない。問題は俺の女が、しでかした大罪だ。それの後始末をオレがやらなければならない…チ、舌打ちする。 俺はあの女の為ならなんでもする。悪魔になら、とうに魂は売り渡して有る。 あの女が過去にされた悲劇は、世間に理解された。だが、以前あの女の口から事件の詳細が語られる事は無い。問題は、加害者の男性だ。あの男をこの世界から抹殺しなければならない。 都合の悪い存在は、この世界からケスー。 浅倉エリ、お前のトラウマに殺される前にな… 取り敢えず、知り合いのヤクザに電話を掛けた。 もしもし? アレ?マークじゃ無いか!どうしたの?久しぶりだね? 彼には、下げたくなかった頭を下げて、弱者の味方をしなかった。偽善はもう、ほとほと聞き飽きて居たんだよ。フ、全部破壊したい。お前の闇等、全部破壊したい。お前が他に男を作って騒いでいる事はもはや、バレバレなんだよ。バッカじゃねぇか、ゴミの癖に。 性被害者はさっさと死んじまえよ、国益が下がるんだよ、バーロウ。 日本で暮らしている間に流暢になった、その言葉じりには、スラングはとっくに紛れ込んで居るだろう。悪を滅ぼす事しか、願わない弱さを孕んだか弱い人民は、110番をかける。それが、1番の近道な訳がないのに、かける。 警察の権力を確かなものにする為のカモフラージュだと、皆騙されているとも気づかずに。嗤えてくる。自分は、善人の国日本を毛嫌いしている。こんな国、とっとと滅んでしまえ… 核兵器が、この国を破壊したら良いのにな… ボソッと呟く僕はきっと、精神的に酷く錯乱しているのだろう。明日、人を殺しても、正当防衛が成り立つ訳だから、この国は本当に弱者に優しい国だ。フフ。 オレの言う事を聞かないから、ミサカはいつかオレの電話に出て呟いていた。 あの女、頭オカシイよ… そんな事、とっくに知ってるさ。笑ってしまったのはこっちの方だ。ミサカ自身の言い分は、全く聞き耳を持たなかった。 しらねぇよ、そんな事。 サッサと携帯を切り、私は殺意に満ちたこの街の苦悩に愉悦している。殺意がこの国を、あのかつての首相すら、英雄だと勘違いさせたのに、未だ取り憑かれた様に、彼を支持するこの国は、本当にクラクラする。どうでもいいが、マスクはつけないとネェ。 冗談は口だけにしとけよ、フハハと彼は大胆不敵に笑っていた。 その場に居たものがその彼の内を知れば、厄介な相手だな、と鼻をへし折られる。彼はそう言う事を繰り返して、罷り通っていた悪童だった。 消え去りたいなんて考えるくらいならヤレよ。オレは甘いアイツのそう言う性格がこの悲劇を巻き込んだんだと捉えている。その指摘は正しい筈だ。 殺せばイイ。
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