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第3章
それからおもに晩ご飯を終えると、オレたちはレイコさんの部屋で時を過ごすことが多くなった。オレは大学の講義中も『新しい人よ眼ざめよ』を読みつづけ、およそ3日間で読了した。しかしいま思うと、まだこれといった人生の経験も深遠な苦悩もなかったオレが、ほんとうにこの小説を理解していたとは到底思えない。ただひとつだけ、とても大切なメタファーが芽生えはじめていたことを、あとから気がついたのではあったが……
それは次のブレイクの予言詩から、春先の野花のように芽生えたものだった。
《眼ざめよ! おお、新時代の若者らよ! 無知なる傭兵どもらに対して、きみらの額をつきあわせよ! なぜならわれわれは兵営に、法廷に、また大学に、傭兵どもをかかえているから。かれらこそは、もしできるものならば、永久に知の戦いを抑圧して、肉の戦いを永びしめる者らなのだ。》
もし人類が世界戦争のような絶滅の危機に瀕した際、この『新しい人よ眼ざめよ』の主人公の長男イーヨーのような障害者や弱者が世界中から集結し立ち上がるときこそ、ようやく人類は清浄な空気に包まれ救われるだろうという非現実的な祈りのメタファーだったが……
薄いピンク色の、花柄のカーテンの隙間から紺碧色の夜空がのぞいていた。暖色系の灯りに調節されたライトの下で、並んでベットに横たわりながら、レイコさんはオレの非現実なメタファーを初夏の日差しのような微笑みで聴いてくれた。
ワタシは以前、大学の図書館から借りてきた「生命の樹」の装画が忘れられない
大江健三郎も小説のなかで述べていたけれど、あの装画からは恩寵のようなものを感じたわ
大江いわく恩寵は、イエスの思想の核心をなす「罪のゆるし」につながるようだけれど
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