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序章
スタンドライトの卵型のLED電球は、まるでこの8畳の和室の小さな太陽のように、隅々にまで淡くあたたかなひかりを放っていた。枕もとで愛犬シーズーのシーは、うつ伏せのままピンク色の舌をちょっとのぞかせ心地よいリズムで寝息をたてている。
いまオレは、琥珀色の淡い灯りを頼りに、十数年ぶりに大江健三郎の連作短編集『新しい人よ眼ざめよ』を読みはじめていた。18〜19世紀のイギリスの神秘主義詩人ウィリアム・ブレイクの予言詩に導かれ、主人公の作家と障害をもって生まれた長男イーヨーとの共生の物語。十数年前、1年歳上の英文学科の先輩レイコさんから勧められはじめて読んだこの小説を、彼女の面影を求めながら、思い出を辿るように読みすすめていた。
──今どこにいますか?
そうこころのうちで彼女に問いかけ、何度も繰りかえしindestructibility(和訳:不滅)と口誦しながら……
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