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【episode3 - 冷厳な母】
4歳の誕生日を目前に控えたある日のことだった。
私は、精神科医のジークムン・フロイトが提唱した発達段階理論の『男根期』に突入した。
男根期とは、概ね就学前から小学校中学年までの子供が性器に関心を持ったり弄ったりする時期のことである。
このことが、中高一貫のお嬢様学校に通った母には許せなかった。
幼い自分の娘が性器に興味を抱くなど、ふしだらなことがあってはならなかったのだ。
そこで、娘に対する母の愛情は歪んだ形となって現れた。
事もあろうか、怒りの矛先がハルくんの母に向かったのである。
不倫の果てに2人の子供を産み落とした女性への偏見だった。
ふしだらな母親が育てた息子であるハルくんと私が共に時間を過ごすことで、良からぬ知恵がついたという思い込みである。
ある日のことだ。
母は、私の手を引いてハルくんが住まう小さなアパートの一室に向かった。
軋む階段を登ると古いドアをノックする。
「はい…。」
部屋の中から小さな声がしてハルくんのお母さんが扉を開けて顔を出す。
「あ、いつも息子がお邪魔して…。」
母は、ハルくんのお母さんの挨拶を聞き終わらないうちに、
「我が家の娘がおかしな行動をするのは、あなたの息子のせいよ!」
そして、「その原因を作ったのはフシダラな母親である貴女。」と、捲し立てたのだ。
しばらくは、母親の傍で大人しく話に耳を傾けていたハルくんが、そっと声を発っした。
「おばさん、お母さんのことをそんなに怒らないで。僕が謝るから…ごめんなさい。」
ハルくんの言葉を聞いた途端、私は無性に哀しくなり大粒の涙を溢した。
「今後は!娘と息子さんを遊ばせないでくださいね!」
しゃくりあげて泣く娘を見た母は、バツが悪そうに捨て台詞を吐くと、再び私の手を握り足早にその場を立ち去った。
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