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【episode4 - 扉の向こう】
「ハルくん…。」
ノックしながら声をかける。
いつもなら、ドアが大きく開かれ笑顔のハルくんが飛び出してくる。
母に、ハルくんと会うことを禁じられても尚、私は彼を求めずにいられなかった。
「開けちゃダメよ!」
普段は穏やかなハルくんのお母さんが強い口調でハルくんに言い聞かせている。
「ごめんね。ドアを開けるとお母さんが泣いちゃうから…。」
そう言うハルくんの言葉を聞いて、お母さんが再び声を出した。
「本当は、こんな意地悪みたいなことしたくないの…。」
その声は涙にくぐもっている。
開かぬドアを見つめながら、いつしか私も声を上げて泣き出していた。
「ハルっ…ハルくん…エグっ…グスっ。」
「ごめんね。ごめん。」
ドアの向こうでハルくんの声がする。
私は、ただ彼の顔が見たかった。
只々、ハルくんの笑顔が見たかっただけなのに。
しかし、その願いは叶わず、私たちが共に優しい時間を過ごすことは2度となかった。
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