【episode7 - 雪解けの先】

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

【episode7 - 雪解けの先】

壊れかけた私の心を唯一救ってくれたのは、窓辺で(ひか)るガラス細工だった。 誰かから頂いた外国土産だったように記憶している。 南瓜の形をした置物は、太陽の光を浴び美しい光を放っていた。 ハルくんの瞳の色を思わせる透明感と煌めきは、私の心を慰めたのだ。 そんな日々を重ね、雪解けを迎えた春のことである。 私は、母と共に以前住んでいた街を訪ねた。 母子ともに仲の良かった友人宅にお邪魔したのである。 母とおばさんがお茶を飲みながら話に花を咲かせている中、私と友人はこっそりと街探検に出かけた。 しばらく歩き、ある角に差し掛かったとき、私の小さな心が跳ねた。 ハルくんの家がない。 彼と過ごした古いアパートの建物も、日が落ちるまで座って話し込んだ外階段も全て消えていた。 記憶の中では、昨日のことのように思い出せるのに。 幼い私には理屈や難しいことなんて考えられるはずがない。 だが、なぜか分かった。もう一生会えない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加