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 パパ、遅いなあ。  私は時計を見上げて腕組みした。 「ちょっと職場に忘れ物しちゃって。すぐ戻るから、一人で留守番できる?」  なんて言って、パパは家を飛び出して行った。  だから今、家には私一人。別にもう4年生だし、留守番なんてどうってことない。でも、パパの仕事先はすぐ近所だから20分もあれば帰って来ることができるはずなのに、なかなか帰ってこない。パパが家を出てから30分は経っている。  窓から外を覗いてみても、パパの姿は見えない。 「もう、パパったら」  ほんの少し、心細くなってきたのを誤魔化すように、息を吐いてそう言った。  私の家は、いわゆる『父子家庭』だ。ママは私を産んだ時に死んじゃったらしい。  だから私は、ママの顔も声も、何も知らない。記憶がないってことは元からいないのと同じだから、寂しいと思うことはない。  毎朝お仏壇に手を合わせて、パパは「ママに挨拶しなさい」って言うけど、ママはそんなところにいないことくらい、私でもわかる。それに、ママと話したこともないのに、何を話せば良いかもわからないし。
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