大した距離ではないですが

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俺の姿を見つけて嬉しそうにしながら、少し向こうから手を振っておーちゃんが駆け寄る。 座っていた椅子からゆっくりと立ち上がると、丁度おーちゃんが目の前に着いた。 「見つかってよかった……」 「よう見つけたな、お疲れさん。座るか?」 「大丈夫です!体力はありますし」 「ここまでやったら一人で出かけてもええんやで」 「うーん……」 「電車賃なら出すし……いや、また迷子になるかもしれへんから、か?」 「あ、いえ。そうではなく」 おーちゃんは間髪入れずに応えると、少しだけ頬を染めた。 「行くなら、孝光さんと一緒に出掛けたいなって思いまして」 「……可愛いなぁ、おーちゃん」 「い、今のはどこがですか……!?」 「うん?」 眉間に皺を寄せて真剣に考えた後、俺は真顔で答えた。 「……全部やな」 「ぜ、全部?」 「せやで」 「え、えっと、本とか読んでたんですが、そんな風には……」 顔を真っ赤にして俺の気持ちを何とか知ろうとしてくれたパートナーに笑いかける。 「その手の本はうちにはあれへんよ」 「そうなんですか!?」 「ええ、そうなんです」 おーちゃんが慣れている店の中には残念ながら本屋はない。 「……そういう本も買ってかえろか」 「いいんですか!?」 「ええよ。元々今日はおーちゃんの為にここまで来たんやで」 「朝のCM、そんなに僕行きたそうにしてましたかね」 「朝に限らず俺にはずっと行きたそうに見えてたで」 「は、恥ずかしいな……」 「そんなには見てへん。おーちゃんの顔をよーく見てたから気付いただけや」 「た、孝光さん……!」 耐えられなくなったのか、顔を両手で覆い隠す。 指の隙間からこちらを見るのを、にんまりしながら眺める。 「そら見てまうよ、おーちゃんの顔見れば見るほど綺麗やし、日に日に愛しくなっていくからな」 「……褒めても何も出ませんよ?」 「そんなん関係ないわ、俺がこの後出すんやから」 「本ですね、ありがとうございます」 「それだけや思ったらあかんで」 「えっ」 「そろそろおーちゃんが知識でしか知らん季節……冬が来んねん。持ってるもんで間に合うかもしれんけど……冬の服も買って帰ろな」 「……はい」 冬本番はもう少し先。 早めについた暖房の効いた店内。 俺達ははぐれないように手を絡めて歩き出した。
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