大した距離ではないですが

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「い、今どこにいますか……?」 電話越しに震えた声で言う相手を想像して、口元が緩みそうになる。 零れかけた笑いは反対の手で押さえて、平静を装って応える。 俺のパートナーは相手は今、迷子なのである。 「おーちゃん探してた所やで。一応さっき二人で遊んだゲーセンの前におるけど、辿りつけるか?」 「え、えっと……頑張ってみますぅ……!」 「ほな、オレは動かへんと待っとくわ。すれ違っても困るしな」 「は、はい!すみませんお待たせして……」 「ええよええよ。そんなに広くはないけど、意外と迷うんがショッピングモールやから」 すみません、ともう一度小さな声で言って相手は電話を切った。 こみ上げる笑いを隠さないが、音にはしないように笑う。 近くにあった柔らかい休憩用に置かれたソファに座りながら、ぽつりと呟く。 「家やと凄いんやけど、一人になると不安なんよなぁ」 家ならすごい、というのは別にそういう意味ではない。 おーちゃんは地球人ではないのだ。 はるか遠くの異星人。 それも、一つの星の王子様……だった。 後継者争いに巻き込まれない様に星には帰らない、というより帰れない。 そんなおーちゃんが結婚相手を探していた時に、出会ったのが俺。 なんだかんだと今まで続いており、おーちゃんも随分この星に……俺の地元に馴染んだ。 現状では仕事が出来ないから、と精力的に家事手伝いをしてくれている。 ゴミ捨ての曜日や賞味期限を俺よりもちゃんと覚えて消費し、清潔を保っている。 明日は早いと伝えれば先に起きていて、ギリギリまで寝かしていてくれる。 近くの商店街の特売の日も、安くなる時間も完璧。 時折来る異星の元王子様を狙う刺客も自身で対応する。 ―― むしろ俺のが何もできていないのではないか。 そう思う程、たまたまにしては最高のパートナーである。 性別問わずこんな人居たら結婚したい。 と言いたくなるようなおーちゃんは、一人が苦手なのだ。 出会った時も結婚相手を探す為に倒れていた。 一人が苦手は語弊があった。 人との距離感の取り方が異星人だからか、独特なのである。 それがおーちゃんの出身地独特の物なのか、おーちゃんだからなのかは俺には判断は出来ない。 一緒に過ごすうちに少なくともこの星の……もとい。 俺の地元の人とおーちゃん自身が少し違う事に気付いたのか、人と関わる事を怖がっているようだった。 一緒に出かける分には良い。 そうでない時は俺の様子を見て、どうにもならない時に出かけているというような時期があった。 だから俺はおーちゃんを良く見知った商店街の人達と雑談をしながら紹介し、少しずつ顔を覚えて貰って行ける場所を増やしていた。 作戦が功を奏したのかは分からないが、近場には気兼ねなく出かけて行けるようになった。 しかし現状、それ以上の距離には出かけられなかった。 様々な店が入ったショッピングモールのテレビ広告をみて、おーちゃんが目を輝かせていたのは知っている。 技術的にはおーちゃんの星の方が発展しているのだが、それとこれは別。 行った事のない場所というのは、たとえ既存の店や見知ったものの集合体だとしても気分が上がる。 家からショッピングモールまでは電車で数駅。 仕事で疲れてはいるが行けなくはない。 何気なくおーちゃんの隣に座って、「そこ行ってみる?」と聞いたのが今日の朝。 ゆっくりとこちらを向いて嬉しそうに頷いた彼をここまで連れてきた。 目立たない所では手を繋いで。 少し人通りの多い所では照れくさいのか服の裾を掴んで。 そして、ショッピングモールの中でテンションの上がった彼は。 俺の目の届く範囲ではしゃいだ。 ゲーセンで二人で興奮しながら取った白いくまの大きなぬいぐるみ。 持ち運ぶ為にビニール袋をサービスカウンターに取りに行った所ではぐれた。 店は沢山あるしおーちゃんとまだ歩いていない方の専門店街を通っていったので仕方がないとも思った。 探すか迷ったが、入れ違いになったら収集がつかない。 おーちゃんは体力があるが、俺はそうでもないのでゲーセン前に戻ってきたのだ。 「孝光さん!」 「お!きた」
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