運命のつがいと初恋 ①

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 勤務終わりに頂いた菓子折りと花束をそろっと自転車の籠に入れ、帰路を急ぐ。自分以外はβの女性だけ、という職場だったけれど保護者のΩ差別の際には庇ってくれたりとΩの自分に優しい職場だった。次の職場もそうだったらいいなぁ。まだ見つかっていないけども。  自分で辞めると決断したのに、薄暗いなか自転車を押していると寂しくなってくる。園から徒歩十分の我が家はもう目の前だ。  十階建てのマンションは就職を機に引っ越してきたのでもう五年目。職場に近いのはいいけれど、家賃は相場より若干高めだ。家族が職場の近くでオートロックじゃないと、とうるさいのでここに決めたのだが無職になってしまった自分には贅沢な住みかだと思う。  エントランスの脇から駐輪場へ入り契約場所に停め、エレベーターの手前にあるポストを覗く。このときいつも胃の辺りが気持ち悪くなる。  変わったものは、入っていない。  見た限り、DMが二通と不動産系のチラシだけだ。ほっと息をつき、陽向はそれらを手に取った。約一年前、カッターの刃が出た状態で入っていたことがあり、その後には瞬間接着剤を投函口から投入されダイレクトメール等が固まっていた事もあった。Ω死ね、Ωはここから出ていけと書かれた手紙は数日に一度は入っている。  どうしてこんな嫌がらせをされるのか。陽向には全く心当たりがないが、手紙に陽向の名前ではなく「Ω」と書かれていた事からアンチΩからの嫌がらせだろう。  しかし犯人はなぜ、陽向がΩで、ここに住んでいると知ってるのか、分からない。一部の保護者には陽向がΩだと知られてしまったが、職員の住所が公開されることはない。同僚は通報したらとアドバイスをくれたのだが陽向は出来なかった。  どこまで知られているか分からないから、警察に連絡して隣近所に陽向がΩだと広まってしまうリスクを考えてのことだ。  これ以上身に覚えのない中傷が増えたら陽向のメンタルが持たない。最悪の場合、トラブルの原因とされて退去させられる可能性もある。αβΩは平等だと叫ばれているが、実際、根付いた差別感情の根絶は難しい。  ちょうど職場で保護者からΩの先生は問題があると声が上がった頃だったから波風立ててこれ以上の問題を抱えたくなかった。  Ωは本当に生き辛い。  Ωというだけで誰か分からない人間から死ねと言われたり、誘惑したと疑われる。  発情期が来ているかも疑わしいくらい薬できっちりコントロール出来ている陽向でもだ。  加害者が絶対悪い。それは間違いないけれど、自分がΩたからしょうがないとどこか諦めている。生まれもった性だからΩの男性というカテゴリーから陽向は一生逃げられない。肩身の狭い思いでβの顔をして生きるしかないと思っている。
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