運命のつがいと初恋 ④

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 は、と思う。  前を見ると今度は塗り絵をはじめた凛子とテレビを見つつ色塗りを褒める東園の両親。 「ちょ、ちょっと、やめろよ」  小声で非難しながら東園に顔を向ける。  見られてなかったようだからいいけど、万が一こっちを向いていたらどうするつもりだったのだ。  東園は睨んだ陽向の唇にキスをして背後から巻き付いてきた。 「ちょっ」 「はあ、今日もいい匂い。可愛い」 「は、離れて、見られるってば」  耳や首筋に鼻を押し当てる男を肘で押す。そうしてようやく離れた東園はご機嫌にカップを用意しはじめた。  前を確認したらお絵描きの歌を歌いながら三人でこちらを背に塗り絵に没頭していた。   見られていなくてほっとすると同時に顔がかっと熱くなる。  可愛いと言われた。  キッチンでいちゃいちゃするのは恋人とするものじゃないのかなと思う。  この男はいつも恋人とこういう風に過ごすのかもしれない。布巾を絞りながらすぐそこでカップボードからカトラリーを物色している東園を横目で見る。  ネイビーのハイネックセーターを着ている東園を見ながら、なぜか昨夜見た当人を思い出し陽向は一人、更に赤面する。  陽向と同じように夜一緒に寝て、さっきやったようにキッチンでキスをして。  そんな人が、今まで何人くらいいたんだろう、そう思うと胸の中がもやっとする。  なぜ、もやっと?  いつも感じるイケメン爆ぜろ的なもやっとに近いような、遠いような。  皿を食洗機に並べながら悶々としている陽向に遠くから声が掛かる。 「ひーたん、ひーたん」  はじかれたように顔を上げるとリビングの三人がこっちを見ておいでと手招きしている。  東園が代わるよ、と仕事を引き受けてくれたので、陽向は乞われるままリビングへ向かった。  夕飯は誠二郎の「智紀の鍋が食べたいな」で決まり、東園と陽向で買い出しに行った。  つきっきりで誠二郎に遊んで貰った凛子は二人が帰る頃にはうとうとしていたが、寝るというときになって目がギラついてきた。  凛子のベッドで絵本を読みながら陽向からもふあっと欠伸が零れる。これで3回目の絵本だ、陽向の身体もすっかり暖まっていた。  昼まで寝ていたのに、と思う。  絵本が終わる頃、ようやく凛子がすうすうと寝息を立てはじめる。  まだ眠りに入りたての凛子を起こさないように、しっかり寝るまでの待つ。凛子のたてる寝息のリズムはなんとも心地よく、陽向の目も徐々に閉じてゆく。
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