運命のつがいと初恋 ④

10/30
前へ
/165ページ
次へ
 公園は利用者の増減を繰り返し、夕食の時間帯になると横切るのは帰宅者だけになった。  住宅街の中にぽつんとある公園なので夜になると外灯の明かり以外は車道を走る車のヘッドライトが流れるようにあたりを照らしながら去って行くだけだ。  懐中電灯を持ってきていれば良かったなと思う。  凛子は依然見つかっていない。  三浦と連絡を取り、毎回がっかりする。  一度帰っておいでと智紀や三浦が何度も言って、三浦は迎えにも来てくれたが、もし凛子がここに戻ってきたら、と思うと帰れなかった。  こうちゃんとこうちゃんの母親は一部始終を目撃しており、必要になったらなんでも話すから、と連絡先をくれた。  あんなに一瞬で連れて行かれたら、防ぐのは無理よ、と励ましてくれたが、陽向からすればどう考えても自分の不注意のせいだと思う。なんとか慰めようと言葉を継いでくれる優しさに、項垂れたままありがとうと絞り出すしか出来なかった。  幼い子どもにこんなに怖い夜があっていいはずがない。  ベンチに座って車道を見ていた陽向は膝に置いた手に水滴が落ちてきたことに気がついた。雨だ。  そういえば深夜から明日朝にかけて雨が降る予報だった。気温も確か、これから下がる。  凛子は寒くないのか、気になる。  ちゃんとご飯は食べているのか、気になる。  冷たくなった手に息を吹きかける。  車のナンバーが分かっているから、そろそろ見つかっても良さそうなのに。  ぽつぽつと陽向に雨が落ちてくる。  コンビニに傘を買いに行く余裕はない。今度は絶対見逃さない。一瞬でも離れて、ここに帰ってきた凛子と会えなかったら嫌だ。  雨脚が強まり、陽向の前髪を水滴が伝い流れてゆく。  スマホが震えた気がして急いでポケットから取り出した。画面に拭いても拭いても雨粒が降り落ちてくる。  凛子が見つかった連絡でありますようにと祈りながら確認すると、こうちゃんの母親からのメールだった。 「陽向、帰ろう」  目の前にスーツの東園が立っていて、陽向の上に傘を差し出していた。  陽向は首を横に振る。 「りんちゃんが戻ってくるかもしれない」 「陽向、雨も降っている、身体が冷えるよ。今調べてくれているからここで待っていなくても大丈夫だ、すぐに凛子は戻ってくる」  少し屈んだ東園が陽向の頬を撫でた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3293人が本棚に入れています
本棚に追加