運命のつがいと初恋 ④

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「冷たくなっている」 「ごめん」 「陽向」 「僕のせいだ、僕の。だから僕は帰りたくない。りんちゃんが家に帰れないのに、僕だけ帰るなんて出来ない。もしかしたら、りんちゃんがここを目指して帰ってくるかもしれないし、もしかしたら犯人が改心してここにりんちゃんを返しに来るかもしれない。やっぱりここで待ってる」  見上げると東園が「誰のせいでもない」と首を振る。 「陽向、とにかく帰ろう。みんな心配しているんだ。母さんが心当たりがあるからちゃんと話したいって言ってる」 「心あたり?」 「まだ確定じゃないけれど、母さんは姉が凛子を連れて行ったんじゃないかと思っているようだ。うちの人間を使って今探している」 「姉……、それって、りんちゃんのお母さん?」 「ああ。だからいったん帰ろう。陽向に姉の写真を見て確認して欲しい。それに、もし家に帰ってきたとき陽向がいないと凛子も心配するだろ」  両手で顔を覆う。  あの女性が凛子のお母さんなのだろうか。もしそうなら、身の危険はないのだろうか。    でもまだ、誘拐の可能性だって。 「顔を上げてくれ陽向。本当に風邪を引いてしまうよ」  東園の声が心から陽向を思ってくれているのを伝えている。陽向はそっと顔を上げた。  東園は陽向の手を取り引き上げると「さあ帰ろう」と肩を抱いた。  歩きながら何度も振り返る陽向に大丈夫だと囁く。東園は肩を押し、歩きを止めないように促す。  幼児連れでも10分掛からない場所にある公園なので、すぐに東園宅が見えてくる。  こんなに近くで、と悔しい気持ちがまたせり上がり涙がこみ上げる。陽向は足下に顔を向け乱暴に目を擦った。 「三田村君」  智紀の声だ。  顔を上げると玄関から走ってくる智紀の姿が見えた。陽向は深く深く、頭を下げる。 「すみませんっ、すみません、りんちゃん、僕が、」 「いいから、早く入って。こんなに濡れて」  声が震える。  みんなの大切な凛子を自分の不注意で攫われてしまった。申し訳なさで涙が出てくる。
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