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カップから立つ湯気とほんのり甘い、いい匂い。
「ほら、一口でも食べなさい」
「……ありがとうございます」
スプーンでほんのり焦げたチーズを割り中のパンと飴色のタマネギを掬う。
口に入れるとじゅわっとパンからスープが染みだし、口の中が温かくなる。チーズとたっぷりタマネギの旨味が本当に合う。温かくて美味しくて、涙が出てくる。
すんと鼻を鳴らした陽向に「それだけでもいいから、食べて下さいね」とキッチンから三浦が声をかけた。頷きながら陽向は自分だけこんなに美味しいものを食べて、と心が痛くなる。
三浦の計らいだろう、数口で食べ終えられる量で助かった。
とても美味しいのに、胸が痛くてこれ以上は入りそうもなかった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせた陽向に三浦はお茶をつぎ足してくれる。普段ならもう三浦は帰宅している時間なのに申し訳なく思う。
「食べてすぐにごめんね、ちょっと見て欲しいんだ」
正面に座った智紀がすっと写真を出した。
智紀の隣に誠二郎も座る。受け取った写真は、髪の長い美しい女性が微笑んでいるものだった。
隣の東園も少しこちらに身体を寄せ陽向の手元を見た。
目鼻立ちのはっきりした美女だ、どうだろうか。
陽向は今日見た女性を思い出す。
凛子と話しているとき、髪に隠れて顔がよく見えなかった。逃げる際は女の横顔がちらっと見えた。鼻の高い整った顔だったがこの写真の女性か問われるとはっきりしなかった。雰囲気は似ているけれど。
「ごめんなさい。顔ははっきり見えなくて。ただ髪を肩くらいで、ベージュのコートにピンクのパンプスを履いていました。本当に、役立たずで、……すみません」
「大丈夫。ゆっくり顔を観察できるような状況じゃなかったって分かっているからね」
写真を握りうなだれた陽向の肩を、智紀は優しく撫でた。誠二郎は智紀の言葉を肯定するように頷くと、電話をかけ始めた。
「三田村くん、巻き込んでごめんね。まだ警察には連絡していないんだ。今現在、絢子と連絡が取れないから、探しているけど誘拐の可能性もある。僕達も探しに行くから休んでいてね」
顔を上げた陽向に微笑みかけて、智紀は立ち上がった。あやこ、とは東園の姉、凛子の母の名前のようだ。
「絢子の気持ちが落ち着くまで、凛子の話題は出さないようにしていたんだ。でもこのあいだ絢子のところでうっかりスマホを忘れて買い物に出ちゃって。凛子の写真かなにか見たんじゃないかって思うんだよ。帰ったら絢子、急に泣き出したり、イライラした様子でちょっとおかしかったから」
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