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保留にせず話しているので凛子に「ひーちゃんからですよ」と優しく語りかける三浦の声もちゃんと耳に届いている。
陽向の耳に聞こえてくる凛子の声は張りがあり、元気なんだなと想像できる。
感極まって涙目になってきた。誰もいなくて良かったと思う。
「ひーた、」
「りんちゃん、元気かな?」
「うん!」
「そうか、良かった」
元気な返事にとうとうぽろりと涙がこぼれた。
凛子は昨日、おばちゃんと車に乗って、知らないおうちに着いて、遊んでいたら誠二郎と智紀が迎えに来てくれた、と陽向に教えてくれた。
凛子の話ぶりでは楽しく過ごせたようだ。
拐っていったのが母親じゃなかった可能性もあるが、凛子は昨日から一緒にいる「おばちゃん」について怖い、嫌いといった悪感情は抱いていないようだった。
凛子が拐われたことで陽向は精神的にも体力的にもすり減ったが、凛子がそれで母親に恐怖を感じていないようで良かった。拐われた自覚もなくて良かった。いつの日か凛子と両親が一緒に暮らせるようになれば嬉しいから。
陽向としては、凛子がいつも通りだと確認出来たら十分なので凛子に「三浦さんに代わってくれるかな?」と伝えた。
「りんちゃんが元気そうでほっとしました」
「私もこちらに来てほっとしました。智紀様が三田村君に申し訳ないことをしたとおっしゃっていましたよ」
三浦の声も昨日より明るい気がする。
「そんな、僕の油断もありますので。あ、三浦さんこれからずっとそちらですか?」
「あ、いえいえ。たまたま智紀様が外出の予定があるとのことで急遽こちらに呼ばれました。明日は通常通りの予定です」
こちらは元々、人員が多いですからね、と三浦がのんびりした調子で言った。
凛子は絢子と打ち解けているのだろうか、二人の様子が気になるけれど、第三者が口を挟むべき事じゃない気がして言葉を飲んだ。
「そうなんですね。あ、何か買い出ししておくものありますか?」
「なにもありませんよ」
三浦はやはり今朝こちらに立ち寄ったらしく、買いものの必要はないそうだ。
今晩だけ夕食を陽向さんにお願いしてもいいかしら、と聞かれ陽向は二つ返事で引き受けた。
しかし冷蔵庫の食材で簡単に出来る料理、のレクチャーを受けたが工程が長く、とても初心者の陽向には作れそうにないかった。
ながながと説明を受けたので言い出しにくくなったが陽向は小さく「多分無理です」と白旗を揚げ、結局カレーを作ることに落ち着いた。
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