運命のつがいと初恋 ④

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 夕方になると東園から遅くなる、夕飯は先に食べてと連絡があった。実家に寄るとのことだが夕食は帰って食べるそうだ。  取り立てて美味しいわけでもないが不味くもないカレーを食べ、風呂も終わってソファーでゆっくりテレビを見ていると、なにか変な感じがする。  つい数ヶ月前まで帰宅して一人、マイペースに過ごすことが極上の時間だったが今は静かな部屋が少し寂しく感じる。  スマホが震えたので東園かなと思いつつ見ると、連絡は康平からで「再来月そっちで勉強会があるから飯でも食おう」とあった。了解、と返事をしてそういえば正月に帰省できなかったことを思い出した。  一度、色々と落ち着いたら帰ろうかなと思う。  これから、これからどうすべきなんだろう。  忙しくしていると忘れていられることも、こう暇ではつい考えてしまう。  本当に東園は陽向の運命のつがいなんだろうか。  東園は初めて陽向を見たとき衝撃を受けたと言っていたが、陽向のほうは匂いのきつい奴、と思った記憶はあるが、そのくらいの感想しか持たなかった気がする。衝撃とはほど遠く、好意的な感触でもなかった。  東園の勘違いじゃないかと疑う一方で、陽向自身、自分が鼻がきく方じゃないと自覚もある。正直自分の感覚より東園のほうが正しい気がする。  運命のつがいだとしたら、もしそうなら。  自分に運命のつがいが存在するなんて思っていなかったので、なにをどう考えたらいいのかよく分からない。ああ、そうなんだ、とスルーしてもいいものかな。 ぐるぐる考えていると玄関で物音が聞こえた。 抱えていたクッションをソファに置いて玄関をそろっと覗くと靴を脱いでいる東園と目が合った。 「お帰り」  陽向が声を掛けると東園が動きを止め顔を上げた。ほんの数秒だが真顔でじっと陽向を見る。いつもこういった反応を見せるので最近は慣れてきたが、最初は自分の顔になにか付いているのかと落ち着かない気持ちにさせられた。 「ただいま」  日課のフリーズから脱却した東園は微笑んで陽向の頬にキスをする。  東園と寝るようになってから、普段の生活でもスキンシップが増えた。  凛子がいてもキスをするのでちょっと困るが、嫌だと思ったことはない。そういうのも運命のつがいだから、なのかなと思う。 「あ、ご飯先食べる? 風呂が先?」 「そうだな、陽向のカレーからがいいな」  階段を上りながら東園はちらっと振り返りまたふっと微笑んだ。随分機嫌が良さそうだ。  普通のカレーだけどなと思いながら陽向はキッチンへ向かった。
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