運命のつがいと初恋 ④

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 風呂から上がった東園は、ソファでニュースを見ていた陽向の隣に座った。  中学の時から眉目秀麗で恐ろしいほどモテていたが成長した今のほうが大人の色気が加わって格が数段上がったように見える。  スウェットに下ろした髪でも芸能人のようなきらびやかなオーラを纏う東園に申し訳なさを感じる。  運命のつがいは選べない。なにも普通の容姿で上流階級出身でもない陽向じゃなくても良さそうなものなのにと思う。  陽向は以前東園から運命のつがいがいると聞いた、そして確か運命のつがいに片思いをしていると言っていた気がする。  それって陽向に片思いしているということなのだろうか。スペックが違いすぎてにわかには信じがたいし、つがいと片思いしている人が同じ人間といっていたか、実はあやふやだ。まさか自分が関与してくると思っていなかったので聞いてはいたがしっかり覚えていなかった。 「陽向? どうした?」 「あ、ちょっとぼうっとしていただけ。あそうだ、りんちゃんのことなんだけどしばらく誠二郎さんと智紀さんの家で過ごすんだよね? 一応ね、りんちゃんもうすぐ入園だからそのお道具とか、あるんだけど」  東園の目が陽向の横顔をじっと見ているのが分かる。   視線が痛い。心の中まで見透かされそうでドキドキしてしまう。  そろっと東園を伺う。  下ろした髪が少しだけ東園を若く見せる。    風呂上がりリビングにいるときは自然な髪が爽やかなんだけど、二階に上がると爽やかじゃなくなる。そんな事をぼんやりしているあいだに考えてしまい、陽向はそろっと顔をテレビに向けた。 「そうだな。今後どうなるか分からないから、三浦さんに持って行って貰おうか」  陽向はてっきりじゃあ届けて、と言われると思っていた。ここでの仕事は凛子不在の今、陽向より三浦のほうが断然忙しい。陽向は首を傾げ、東園へ顔を向けた。 「それ、僕が持って行こうか、暇だし」 「だめだな」  穏やかな口調でそう言ったあと、東園は陽向に目をやった。 「どうして?」 「……匂いが強くなってきているから」 「匂い? え、匂いって、え、」 「発情期、そろそろだろう」  陽向は急いでパジャマのボタンを二つ外して自分の身体を嗅いでみる。  しかしいつもと変わりない。  発情期を経験して知った、自分の身体から立ち上る甘ったるい匂いは全く感じられなかった。
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