3293人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと意識が浮上した。
今が昼か夜か分からない。
何時かなと思った。それと同時に吸い込んだ空気に混ざる東園のα臭に尻からとぷと蜜が溢れ下へ垂れてゆく。
まだ発情期がすぎていない。
手を伸ばして確認するけれど、ベッドに東園はいない。
ようやく開いた視界が滲む。いない、なんでいないのと思う。
相手をするって約束したのに。
いま苦しい、いま欲しい。そういう普段なら我慢出来ることが全く無理になっている。
陽向は身体を起こすと部屋を見回した。明るいから朝、いや、昼か。東園はやっぱりいない。
部屋にもいないことに酷くショックを受け、陽向の両目からたらたらと涙が流れ落ちる。
本当に東園は自分を置いてどこかに行ったのだろうか。
拭いても溢れてくる涙に構っていられない。陽向はベッドを抜け出し廊下に出た。
下に人の気配がする。足音、話し声。一人は女性、三浦かなと思う。もう一人が分からない。階段まで進むと三浦と話しているのが声で東園だと分かった。
そこにいる。居ても立ってもいられなくて陽向は階段を駆け下りる。
ダイニングテーブルの脇に立ってキッチンにいる三浦に向かって話しをしていた東園が陽向の足音で振り返り、ぎょっとして駆け寄った。
階段を降りきった陽向は、驚きながらも両手を広げた東園に飛びつく。
抱きついて東園の胸に顔を埋めるとようやく息が出来る気がした。
「かおる、まだ、まだで、だから」
「分かってるよ。ごめん、上にいなかったから心配になったよな。これ取りに来ただけだから戻ろう」
嫌がる陽向をどうにか離し、これと東園が見せたのは市販のゼリー飲料だった。
陽向は食べる気になれないが、東園は腹が減っているのかもしれない。
三浦もいることだし食事を頂いたら、と言ってあげたいところだが陽向ものっぴきならない性欲を抱えている。
また抱きつこうとした陽向を制した東園は陽向を横抱きして歩き始めた。
「俺を探してくれるのは嬉しいんだけど、裸で出てくるのは止めてくれ」
「……あ、そうだった」
東園にそう言われ、陽向はなにも着ていないことに気がついた。
東園の胸に顔を寄せ、陽向はほっと息をつく。
抱いてくれる相手がいると、あんなにきつかった発情期がまったく違ったものになった。
身体が芯から喜んでいる。
だけど頭の片隅に発情期に付き合わせてる間、仕事は大丈夫なのかと思う気持ちが引っ掛かっている。陽向は起きている時間ほぼ発情していて、東園と離れるのが辛いし怖い。
陽向はそんな風だからいいけれど、東園には犠牲を強いている、気がする。
でも、離れたくないし離れられない。
東園の匂いが至近距離でどんどん陽向に入ってくる。
陽向にある思考も気持ちもゆっくりゆっくり溶けて欲に置き換わっていく。
「もう待てないよ」
見上げた東園は笑ったような怒ったような不思議な顔をして「俺もだよ」と唸った。
最初のコメントを投稿しよう!