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「凛子ちゃんがいたら喜んだでしょうね」
「本当に。りんちゃん元気かな? 今度会えるのが楽しみです」
「幼稚園に慣れたらこちらにもまた遊びに来てくれるかもしれませんしね」
「そうですね。じゃあ長く咲いてて貰わないと」
丸い鉢に薄紫と紫のパンジーを配置していると背の高いチューリップを入れてはどうかと三浦にアドバイスを貰った。
確かに高低をつけると見栄えが格段に良くなり、三浦は満足気に頷いた。
首に午後の光が強く当たる。
「今日は暑いですね」
「もう四月だから。あ、帽子、帽子」
三浦がぴょんと立ち上がって陽向が大丈夫ですと言うのを制し家に入っていった。
もう作業も終わりかけだ、今更いいのに、と思ったが三浦はフットワークが軽い。
立ち上がった陽向は三浦の駆け込んだ方向へ顔を向けた。三浦が締めたガラスに自分が写る。こうやって見ると髪が伸びたなと思う。
「陽向さん、これ、かぶって」
「わ、すごい。これ普通に売ってるんですか?」
「つばが大きいでしょう? このあいだ見つけて買っちゃいました。私はもう夕食の準備に入りますので使って下さい」
ふふふと笑って差し出したのは恐ろしくつばの大きい麦わら帽子だった。
「いやでも、まだ使ってもないんでしょう。お借りするわけには」
「いえいえ。せっかくの色白ですもの、守らなきゃ」
苦笑いする陽向に麦わら帽子を押しつけて三浦は部屋に帰っていった。
ピンク色の麦わら帽子を被ってまたガラスを見る。すごい、顔、首は綺麗につばの影の中だ。
顔に掛かる髪がなんだかボサボサでいけないなと思う。今週中にでも髪を切りに行こうと思いながら陽向は残りの植え替えをはじめた。
髪を切る、というのはΩにとってはなかなか厄介な部類に入る行為だ。
背後に立たれ、うなじを晒す形を取って髪を切ってもらうスタイルの店が多くなんとなく安心できない。
陽向も以前、前職場の近くでようやく探し当てたΩ性のスタッフが経営するΩ専用のヘアサロンに通っていて、そこにしか行けない。
そう思っているΩは他にもたくさんいるようでなかなか予約が取れない店となっている。
そういうわけで今週中にと思ったものの無理だろうなと陽向は半ば諦めつつ予約サイトを確認した。
やはりというか今週のページはほぼ予約済みの×に代わっていた。明後日の夜以外は。
陽向は迷わず予約のボタンを押した。
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