運命のつがいと初恋 ⑤

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「大丈夫ですよ。ゆっくりさせて貰います」 「ごめんね、三田村君。そこにあるだけ雑誌置いたから、あ、あと飲み物もね」   小さな冷蔵庫を指した小高はじゃあ、と奥へ「お待たせしました、ごめんね」と入っていった。  なるべく客同士顔を合わせないようにカットスペースを区切っているのと以前今日は休みの北沢ここみが言っていた。  向こうから小高とご婦人の笑い声が聞こえる。多分カラー待ちでスマホを弄っている女性の後ろ姿が少しだけ見えるから今日は確かに時間が掛かりそうだ、と思う。  まあなにか予定があるわけじゃない。  三浦と東園に連絡だけ入れて陽向は山と積まれた雑誌の一番上のものを手に取った。    暇である。  先に知っていたらスマホの充電を満タンにしていたんだけど。  ファッション雑誌もほぼ読み、スマホでネットサーフィンも、充電の残量が心許なくてもう出来ない。  もうそろそろかな、と思って30分は経つ。  思っていた以上に時間が掛かりそうで、陽向は今まで手に取ったことのない写真週刊誌に手を伸ばした。  ペラペラとページをめくる。  ネットやテレビのニュースで見たことある情報ばかりだ、もしやと思い表紙を見ると三ヶ月前の発行だった。道理でと思う。  三冊あるがこの号が一番新しいようだ。  ちらりと中を窺うが楽しそうな声が聞こえるだけだ。終わりそうな気配はない。  しょうがないなと手元の雑誌を閉じ、まだ見ていない雑誌に手を伸ばす。  二、三ページ開いた後に陽向は「ん?」と思わず漏らした。  雑誌から目を離し、一度店内をくるりと見回す。  そしてもう一度雑誌に目を落とした。  陽向が思わず反応したのは人気女優の熱愛スクープで、半年ほど前だったか、世間を賑わし陽向も聞いたことがあった。しかし今はとんと聞かなくなった話だった。  ここ数年、よくCMで見る彼女のことは芸能界に疎い陽向でも知っていた。   陽向は無意識に手で口を覆い、その人気女優が並んで歩く熱愛相手をじっと見入る。 「間違いないな」  自分の呟きも耳に入ってこない。  それもそうだ、陽向は今自分史上三本の指に入る驚きに固まってしまっていた。  ぶれた写真、しかも目元に黒い線が入っているがそこに写っているのは間違いなく今一緒に暮らしている東園だったからだ。  財閥系の御曹司X氏にはなっているが、恵まれた体格の東園は立ち姿で分かる。隣に女優さんがいても見劣りしない。東園ってスタイルいいんだなと改めて思う。
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