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午後から崩れる、と朝のニュースでお天気お姉さんが言っていたがとてもそうは思えない快晴の空を見上げ陽向は「暑くなりそうだね」と隣に立つ東園に声を掛けた。
東園の運転で走り出したセダンはあっという間に東園の実家にたどり着いた。
近い、とは聞いていたけれど車で十五分も掛からなかった。
閑静な住宅街の一角、大きな鉄の門扉が見えると東園がリモコンを操作して開き抜けてゆく。
まさか敷地を車で移動か、そんなに広いのか、とおののいたけれど、車はすぐ止まった。
車寄せに駐車した東園は、助手席の陽向の扉を開いて「ここが実家」と現れた瀟洒な邸宅に顔を向けた。
広々とした敷地を活かした低層でモダンな建物は実家と聞いていなければ美術館かなと思うような佇まいだ。民家にはとても見えない。
偶然だったが雑誌で東園の素性を知っていて良かった。知らずに来ていたら陽向は今頃胃痛に見舞われていたかもと心の中で苦笑した。
迎えに出た年配の男性に東園が話しかけカギを渡す。
「陽向、ここの管理を任されている藤田さん」
「あ、三田村陽向ともうします」
「三田村様、よろしくお願いいたします。皆様お待ちでございます」
グレーヘアの藤田は目元を緩ませ美しい角度で頭を下げた。
映画で見た外国映画に出てくる執事みたいだ、かっこいいと思う。
「あ、よろしくお願いします」
藤田に見入っていた陽向があわあわと頭を下げると、さあ行こうと東園が陽向の肩を抱いた。
「すごいね、藤田さんって所謂執事さんなの? 執事カフェって知ってる? 前の職場の先生達が行きたいって話してたんだ」
「陽向は藤田さんがタイプ?」
歩きながら東園は陽向のこめかみにキスをした。
東園はこういう触れ合いにとても慣れている。それがどうしたと思うのにいちいち引っかかる自分が嫌になる。
見上げると笑みを浮かべてこちらを見る東園と目が合った。
東園が好きだから、好みのタイプは東園なのかも。
こういうとき普通はどういう風に返すんだろう。素直に言うのだろうか、ぼかすのかな、それとも流していいのかな。
固まった陽向に東園が「頼むから違うって言って」と顔を近づける。触れるだけのキスを唇に落として目を覗き込まれる。
知っていたけど本当に顔が綺麗な男だ。
かっと顔に血が集まって熱くなる。
「ち、違う」
玄関から伸びる廊下の壁に押しつけられた陽向は東園に顎を掬われ深く口付けられた。
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