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「……ん、」
こんなところで、と思うのに力が抜けていく。
東園の匂いが強くなって頭がぼうっとなってしまう。
身体がこの男を求めている。運命のつがいだと言われたとき驚いたが身体を重ねる毎にそれが間違いないと思い至る。
運命のつがいではあるけれど。
「ちょっと、それは帰ってからやってくれる?」
柔らかく、涼やかな声だ。
投げかけられた声にはっとして陽向はそちらに顔を向けた。腕組みした背の高い美女が笑みを浮かべこちらを見ている。
「あ、……あっ、す、みません」
陽向はこんなところを見られたと狼狽えるが、東園は「お預けか」とのんびりした口調で陽向に巻き付いたままだ。
「三田村陽向さんね。私は馨の姉、絢子です。よろしく」
「あ、よろしくおねがいします」
差し出された手を握る。ほっそりした指だなと思う。握った絢子の手は冷たかった。
「あなたには迷惑を掛けてしまって。本当にごめんなさい。そして凛子と仲良くしてくれてありがとう」
陽向より少し背の高い絢子が一歩近づく。
瞳の色が美しく一度見てしまうと目が離せない。眉の形や、バランスの良い配置が秀逸で華がある、東園とよく似ていると思う。
この人があのとき凛子をさらったのか。確かに背格好は似ている、長い髪も。顔は見ていなかったけれど、こんなに綺麗な人だったんだと思う。
陽向は首を振って見せた。
「りんちゃんは元気ですか?」
「ええ、あなたを待っている」
笑うと目尻が下がる。それも東園と同じだ。
絢子は陽向と手を繋いだまま「さあ行きましょう」と向き直って歩き出した。
振り返ると東園が肩を竦め首の後ろを掻いていた。
恐ろしく広いリビングは中庭に面していてとても明るい。芝生の庭に赤いカートが置いてある。凛子が乗るおもちゃだろうが、オブジェのように見える。
リビングの一角に東園宅にあったキッチンがちょこんと置いてある。
今の今まで遊んでいたのだろうか。本やクレヨンがローテーブルに置いたままだ。
「まま、ひーた、」
「あ、りんちゃん」
リビングの奥、6人掛けのダイニングテーブルがあるスペースの奥からブルーのワンピースにエプロンをつけた凛子が飛び出し、その後ろから智紀が「まってまって」と続いた。
「お、ひーたん久しぶりだね! 髪型変えた? 似合ってる」
「お久しぶりです、智紀さん。伸びすぎてたので切ってきました」
陽向は膝を突いて凛子と向き合った。鼻の頭が白くなっている。
「りんちゃんもしかしてお料理のお手伝いしていたの?」
「うん、ピザ! りんちゃんもみもみした」
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