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「凛子、一人は駄目よ。私も行くわ」
「ままも?」
凛子はなぜか陽向を見上げた。
陽向が凛子と二人でお庭探検を楽しみたいと思っている、と考えているのだろうか。
凛子に微笑んで陽向はちらりとリビングを見る。誠二郎と東園はダイニングで書類を見ながら話をしている。智紀も誠二郎の隣で話を聞いているようだ。
「いいね。ママも一緒に三人でお庭探検しようか」
「うん」
元気に返事をした凛子は玄関の框部分に腰掛け自分で靴をはき始め、陽向と絢子は凛子の後から靴を履いた。
屋敷も木々に囲まれていたが裏は芝に飛び石が点々と敷かれ、所々に草花が咲き乱れていた。
凛子はどこになにが咲いているか分かっているらしく、先に走ってはしゃがみ込み、陽向を手招きして花の名前を教えてくれた。
「りんちゃん、お花よく覚えていますね」
「毎日ここをお散歩して眺めていますから」
凛子の後を着いていきながら絢子がのんびりした口調で言う。
セーターにロングスカートの絢子は顔色も、口調も別段不安に思うところがない。
育児に疲れ、目に生気のない母親を見る場面も今まで多々あったが、絢子はやはり落ち着いて見える。
強い風が吹き、庭の木々が揺れる。
見上げると上空に雲がかかっている。
今し方日光が木々の影を作っていたのに、気が付けばもうない。朝のニュースは当たっていたようだ。
「凛子がよくあなたの話をするんですよ。折り紙もお絵かきもとても上手いって」
「幼稚園の先生だったので、描き慣れているだけです」
そういえば折り紙を作ってあげるとよく凛子が上手ねえ、と独特のイントネーションで言われていたことを思い出す。くすっと笑った陽向に絢子が聞いた。
「馨はあなたによくしてくれてる?」
「……え、ええ、まあ」
「そう。よかった」
よくしてくれている、のは嘘じゃないと思う。シッターの仕事はお休み中だけど、追い出しはしないし。
「その、絢子さんがお元気そうで本当によかったです」
「ありがとう。……子どもを育てるって本当に、大変よね」
陽向は小さく頷く。自分に育児の経験はないけれど、見るからに疲れ果てているお母さんとは接したことがある。
育てやすさというものは個人差が大きく、実際、休息が思うように取れないと呟く母親は多かった。
「私、小さい頃から人よりなんでも出来たの。挫折なんてなかったのよね。でも赤ちゃんは思い通りにならないし、出産で身体は消耗している。両親は休めって言うけど可愛いからひとときも離れたくなくて。今考えると自分で自分を追い詰めていたのよね」
「そうだったんですね」
「そんなとき義実家からいろいろと言われて、破裂しちゃったんだけど……。母達やあなたのおかげで一度自分を空っぽに出来たから、もう本当に大丈夫」
陽向を見た絢子は柔らかな笑みを浮かべた。
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