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再び診察室へ呼ばれ、陽向は荷物を持ってドアを開いた看護師に小さく会釈した。
鉛を飲んだように胸あたりが重い。
どうしよう、合う薬がないと言われたら。
何もかも、小森の診察と処方が最初の一歩だ。
不安なまま小森の前に座った陽向に、小森は開口一番こう告げた。
「三田村さん、妊娠されていますね」
息をのんで着ていたパーカーの端を握る。
そんな、息が止まり血の気が引く。
「う、嘘です、そんな」
パーカーを握る手が震える、そして手のひらが汗で湿る。
た、確かに、確かに子どもが出来るようなことはした、東園と。
でも東園はするとき必ずコンドームを使用している。ちゃんと避妊していたのに、そんな。
顔を上げ小森を見る。カルテを眺める小森にはなんの表情も浮かんでいない。
「そんな、妊娠、しているはずがない、」
「……もし発情期に性的接触があれば妊娠の確率は上がりますよ」
陽向は無意識に口元に手を当てた。震えが止まらない。
発情期の期間中、朝も昼も夜も東園と交じり合っていた。
あのときは普通じゃなくて、記憶に穴がある。その時なのか。
小森が淡々となにか説明しているけれど耳に入ってこない。
身体の中に、この腹の奥に、赤ちゃんがいるっていうのか。
陽向はそろっと手を当てた。
ここにいるのか、東園と陽向の子が。
陽向は両手で顔を覆った。
Ωの検診は一律無料となっているので陽向は支払いを待っているわけではないが、一般病棟の待合椅子に座りしばらく放心していた。
とても帰る気持ちになれない。
いまだに信じられない、というか間違いであって欲しいと思っている自分がいる。
なのにずっと服用していた抑制剤が胎児に影響していないか急に恐ろしくなり、小森に噛みついた。大丈夫といって貰ってようやく落ち着いたがこれからは摂取するものに気をつけなくちゃと思っている。
陽向は自分でも分かるほど混乱している。
五つ並んだ会計窓口に、次々に立つ人々を眺めながら、どの人も母親から生まれてきたんだとぼんやり考える。
たくさんの人間が生まれているんだなと思う。
眺めていると一番端の会計窓口で幼児を連れた若い女性が会計に苦労している。子供はうろうろしたくて堪らないのだ。母親は幼児を抱き上げ、なにか子どもの耳元で囁くと子どもはキャッと笑い声を上げた。
涙が視界を覆った。え、と思う。流れ落ちるほどではなくて良かった。
手の甲で拭いながら、自分はどうして泣きそうになっているのか分からない。
はあと大きく息をついたとき、陽向のスマホがピピと鳴った。
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