運命のつがいと初恋 ⑤

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 もしかしたら、もしかしたら産んで育てるかもしれない、そうじゃないかもしれないけど。  プラットホームへ降り立った陽向はうろつきながら目的地へ向かう路線を確認する。  バスが混み合っていなかったから油断していたが、電車は違うようであっという間に待ちの列が長くなる。  Ωの陽向は満員電車がちょっと怖いが今回はそこまで怖がる必要はなさそうだ。近くの高校が放課したようで同じ学生服の生徒達が大半を占めていた。所々で花咲くおしゃべりに、自分たちもちょっと前までそうだったなとのんびり思う。  陽向は中学、高校と康平とほぼ一緒に登下校していた。   当時はテストが嫌、この教科の先生が嫌、先輩がくそ、とかそんな話も多かったけれど、今思えば楽しいだけだったなと思う。  楽しげな声に囲まれたまま陽向は到着した電車へ乗り込んだ。  大通り沿いにあるカフェまでは駅から多少歩くが単純な道のりで、スマホの地図アプリがちょっと苦手な陽向でも悩まず進めた。  夕暮れ時、歩行者も多い。東園家や陽向の以前の職場とも離れたこの地域は陽向もほとんど訪れたことがなくついキョロキョロしてしまう。  陽向の歩く先に短いが店外に行列が出来ている。  スマホをで見るとどうやらパン屋さんらしい。美味しいのかな、夕方にも列が出来るんだなと思いながら横を通り過ぎる。帰りもし開いていたら寄ってみようかな、と思いながら陽向はゆっくりまた前を見る。  隣には不動産の事務所、その隣は古めかしいレンガ造りの喫茶店。  覗きながら歩いているともう康平が宿泊しているホテル横まで到着していた。  大通りの信号は長く、そろそろ着くと連絡してしてもまだ待ち時間があった。  大通りの向こう、真向かいのビルの下、ガラス張りの店が待ち合わせのカフェだろうと思う。  遠目からでも可愛らしい観葉植物が店外にたくさん配置されていて女性が好みそうな外観だ。  康平が浮いていないといいけど、と思いながら信号が変わって皆が歩き出したので陽向もつられて歩き始めた。  窓側ではなく壁側の席に康平はいた。  久しぶりに見た康平は前に会った時よりさっぱりした印象だった。単純に髪が短くなっていただけだが。  スーツ姿もそう見ることがないので新鮮だ。康平は陽向に気がつくとこっちと手を上げにっと笑った。
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