運命のつがいと初恋 ⑤

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 店内の半分は客で埋まっていたが陽向が見える範囲、すべて女性客だった。  顔つきが男らしいタイプの康平はやっぱりちょっと浮いているかなと思う。しかもネクタイを緩めているので余計だ。 「ごめん、連絡しなくて」 「いいって。しかし久しぶりだな。陽向、いつも正月は実家だろ」  席に着いた陽向のもとに、ボーダーのTシャツの上からベージュのエプロンをかけた店員がメニューを差し出した。  いつもならコーヒーかカフェオレだけど、今日は柚スカッシュにしよう。歩いて喉が渇いた。 「ホント、久しぶり。正月帰れなかったから夏前には一度帰ろうかと思ってる。みんな元気?」  康平が近況報告を始め、陽向は届いた柚スカッシュを飲みながらそれを聞く。相変わらず康平は良く喋る。  康平の話す内容の大半は子どもの話だ、どんなことが出来るようになったか、どんな言葉を発して驚かされたのか。困ったもの言いでも家族がどれだけ幸せなのか、よく分かる。  笑いながら話をする康平に相づちを打ちながら、向こうからはテーブルに隠れ見えないであろう自分の腹をそっと撫でる。 「で、陽向の新しい職場ってそんなに忙しいの?」 「え」  瞬きをして陽向は手元のグラスに目を落としすぐ目を上げた。 「陽向、なんか匂いが変わったよな。だから帰れなかった?」  目を楽しげに輝かせ康平が首を傾げた。匂いが変わった、そんなこと隣に座ってる訳でもないのに分かるのかと不思議に思う。αの特殊能力なのかも。 「え、と、臭い?」 「いや、臭くはない」  ぷっと吹き出した康平は「前はなんの匂いもしなかったから」と付け足した。 「すごい、分かるんだ。……自分じゃ匂い、は分からないけど。ただ正月は初めて発情期がちゃんと来て入院してた。でも、誰にも言わないでいてくれると助かる、まだ家族に言ってないから」 「入院って。酷いなら帰ってきたほうがいいんじゃないか? 一人じゃ大変だろう」  眉根を寄せた康平に陽向はそうかも、と思う。  実家で、出産。でも陽向は結婚していないΩだ、家族に迷惑が掛かるかもしれない。  陽向は小さく首を振った。 「それが今、ええと、東園って覚えてる? その姪御ちゃんのシッターをしてたんだけど」 「へえ、……ん? 東園って、中学のあの、あいつか」  身を乗り出す康平に大きく頷く。
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