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そういえば東園に康平と別れたのかと聞かれた事があったなと思う。
好きなΩか。
「さあ、どうだろう」
「なんだよ、再会して付き合い始めたって話じゃないの?」
陽向は大きく首を振った。
「いやいや、東園には、その、女優さんとか、モデルさんとかいっぱいいるみたいだから僕なんて」
陽向は雑誌を見て衝撃を受けてから一度だけ、東園を検索してみた。もしかしたら別れた、とかその後のなにかが出てくると少しだけ期待をして。しかし交際履歴が複数ヒットし陽向は胸がもやもやしてそっと閉じたのだ。
「僕なんて、って。じゃあ陽向は、東園が好きなんか」
「え、それは、うーん、まあ、そう、かな」
こんな事を康平から聞かれる日がくるとは。顔が異様に熱く、手で風を送る。ちっとも熱さが引かないけれど。
いい淀むが嘘をつく必要はないと思い直して陽向は頷き「だって運命のつがいらしいし」と呟いた。
「まじか! そりゃあ良かったな、普通探したって見つからないもんなんだぞ」
「そう、かもしれないけど、まあ、……見つからなくても良かったかも。だって探してなかったし。ていうかなにも東園みたいなのじゃなくても、って」
「あー、そう言ってやるなよ。同じαとして胸が痛くなる」
顎の前に手のひらを合わせた康平が苦しそうな顔をする。
「俺たちαは、ずっと自分のΩを探しているんだ。そういう情報が遺伝子に組み込まれてるんじゃないかと思う。そうか、運命のつがいか。だったらなおさら嫌われてもしょうがないな」
「あのさ、αって運命のつがいがいても、他の人を好きになることある?」
眉根を寄せたまま「ないだろ。いや、絶対じゃないけど」と康平は陽向をじっと見つめる。
陽向は小さくうなずきながらため息を落とした。
「東園って格好いいしめっちゃ金持ちなのに運命のつがいがごく普通の男だなんて、ある意味気の毒だよね。あ、東園だけじゃなくて僕も。僕はもっと、……いや、いいや。あ、今度帰ったとき、家に行っていい? 子ども達にお年玉用意してたのに帰れなかったから」
「陽向」
「もしかしたらそっちに引っ越すかもだけど」
「陽向は卑屈になる前にまず、東園と話し合うべきだな。そもそも本当に女優やらモデルと関係があるのか、やらせとかかもしれないぜ」
康平がじっと陽向の目を見る。陽向が目をそらしてもまだ見ている、頬に突き刺すような視線を感じる。顔を戻して陽向はうんと頷いた。頷くまで違う話題は許してもらえそうにない。
「分かったよ」
「それでな、過去のことなら水に流せよ」
「……α同士の絆は強いんだな」
陽向は苦笑いでストローを唇で挟んだ。
「αはΩに執着するんだ、Ωが考えるよりも強くな。生きている間に会えるか分からない運命のつがいを必死に探すし、見つけたら逃がさない。お前らが運命のつがいだとしたらきちんと話せ」
「分かったよ」
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