運命のつがいと初恋 ⑤

22/31
前へ
/165ページ
次へ
康平の言うとおりだ。  お腹に子どもが宿っていなければ、最悪逃げ出すことだって出来ただろうがそうもいかない。  陽向はお腹に当てた手を少し動かす。  さすがに東園に子どものことを隠せない。ちゃんと話さなければならない、それは分かっている。  ただなんだか怖いだけ。こんな切羽詰まった話をした経験は覚えている限りないから。 「で、東園のどこが良かったの? 聞きたい聞きたい」 「やめてくれよ」 「あいつ昔からいい男だったもんな」  康平はやけに嬉しそうで陽向は肩をすくめる。 これからこっちは修羅場かもしれないというのにふにゃふにゃしやがってと思う。  昔から康平は陽向の窮地を楽しむきらいがある。もちろん助けくれるけれど。  鼻白む陽向を康平がで、で、とせっつく。 どこがといわれても、今となっては何もかもだ。 「色々助けて貰ったけど、そうだな、強いて言うなら、そう、あれ、や、優しいところかな」  目をむいた康平がへえと零し、陽向の顔はぐんぐん熱くなる。   陽向はストローを咥え勢いよくジュースを飲み干した。陽向の様子を眺めていた康平はグラスが空になったところでぽんと手を叩いた。 「じゃあ俺そろそろ行かないと。次は結婚報告かもなあ」 「ちょ、誰にも言うなよ。母さんと兄さんには特に。うるっさいから」 「へいへい」  大丈夫だろうか。康平は嘘が得意なタイプではないのを知っているのでちょっと不安に思う。兄は同じ県内だが近くに住んでいないので、遭遇する確率は低いけれど、母は違う。康平の病院は二軒となりだ。  母が知ったらきっとがっかりすだろうと思う。陽向に見合いをひつこく持ってきていたのは、恋人でもない人と発情のせいで関係を持ち、結果、捨てられ、一人で子供を育てる事にならないように家庭を持って欲しかったからだろうから。  すがるように康平を見ると当の本人は任せろとばかりにしっかりと頷いた。  会計を済ませ外に出るともう日が傾き通りに人が増えている。  先に出た康平の横に並び信号待ちを「そういえばどこで飲み会?」と隣を見る。  康平はじっと前を見たまま眉を上げ「なあ、」と再度声を掛けた陽向にようやく顔を向けた。 「王子様がご立腹だ」 「は?」  目線であっちと差した康平につられた陽向は信号の向こうにスーツ姿の東園を見つけた。 「あれ、馨?」 「かおるって東園? わお」  肩を竦めにっと笑った康平は前に向き直ると笑みを消し信号へ顔を向けた。  
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3293人が本棚に入れています
本棚に追加